【前回の記事を読む】デザイナーズウィーク開幕!ギリギリ完成した作品の評価は…
第四章
ダイニングチェアの講評会も無事に終わり、ダイニングチェアは学内に展示された。就活で必要なポートフォリオ用の写真撮影をした後、父に発送することを写真付きでラインするとすぐに返事がきた。とても喜んでくれているのが文面から伝わって、父への自分の気持ちがまた分からなくなった。
地面が振動で揺れ、大きな音が鳴り響き、顔を近づけないと声は聞こえない。学校に顔を出さない恵が心配で、栄美華とクラブに来た。必ずここにいると確信があった。
男はどの女に声を掛けるか舐めるように女の体を品定めてしている。渋谷のクラブで今夜の退屈凌ぎになる面白い女を探していたのは、女遊びが激しいことで有名だと聞いた大輔だった。見失わないよう一直線に駆け寄って腕を掴むと、大輔が狙っていた女の子が去ってしまい、今にも殺されそうなくらい睨まれてしまった。
「ちょっと話がある」
「あんた誰?」
ホールの隅に私たちは移動して、ここまで来た経緯を短くまとめて栄美華が説明してくれた。
「あいつはもうここにはいねえよ」
「どういうこと」
「俺の友達と浮気したんだよ。あんなビッチ追い出してやったから」
「恵はどこにいるの!?」
「知らねぇよ……」
食い下がる私たちに大輔はしぶしぶ話し始めた。まだ恵が高校生だった頃、家出して渋谷の街を彷徨っていたところを大輔がナンパした。美しくモデルのような恵を大輔はどうしても手に入れたかった。恵は当時他に交際していた相手がいたので大輔の誘いには一切乗らなかったが、猛アタックし続け恵の心を掴んだ。
大輔は恵のような女性と付き合えたことが自慢で、いつもどこでも隣に連れて回った。振り返る男達にこの上なく痛快な気分を味わっていた大輔も、慣れてくると恵に飽きてしまった。もともと女癖の悪い大輔は恵をほったらかしにして、新しい女を見つける度に手を出していた。
「家出していたところを俺が拾ってやったっていうのに、俺のことを裏切りやがったから、二度と顔見せんなって追い出してやった」
自分が先に裏切っておいて何様だ。怒りで右手の拳が震えていたが、栄美華にダメだよと拳を左手で包みこまれた。大輔が話している途中なのを無視して二人でクラブを後にすると、栄美華が恵に電話した。私と栄美華はこれまで何度も掛けてきたが一度も恵は電話にでなかった。私は今回も諦めているとどうやら繋がったようだ。
「今どこにいるの。……うん、あたしと里奈は渋谷」
栄美華のおかげで恵と渋谷の喫茶店で会えることになった。