其の他多數のシュールレアリズム文獻の渉讀に依り之に共鳴し、シュールレアリズムの技法に依りて左翼意識の啓蒙昂揚を圖るべく、昭和十三年頃自分中心となりて山路商・田谷春夫と共に廣島ローマ字文學會を結成し、機關紙(R・B・K)を發行してローマ字普及に併せて詩歌の場面にありて會員の獲得竝に讀者大衆の啓蒙に努め、特に昭和十六年十一月二十三日廣島縣下詩人を網羅する文化團體「國民詩歌協會」を創立し、其の活動を通じて意識分子の養成獲得に資せんとしたる等山路商のシュールレアリズム繪畫運動を支持すると共に、詩活動の場面に於いて高橋義次・旗手力・田谷春夫(何れも撿擧)等と共に巧妙なる運動を展開し來れり、就中旗手力は自己の就職せる廣島縣因島占部造船所、尾道合同鑄造鐡工所内にありて同僚職工數名を糾合し、左翼的グループを形成せしめて密かにマルキシズムの宣傳啓蒙をなしつつありたり。
R・B・Kに依る作詩例竝にシュールレアリズムの思想性政治性に對する供述の一端を摘記すれば左の如し。
(1)作詩例
△月 山路商
A
月は燐光を發しながら
地をながしながら
聲の無いうめきと
共に押し寄せて來る”時”に反抗してゐる
B
月は”思想”を捨てろと叫んでゐる
C
月の𢌞轉は時の速度に敗北した
△美學の無い作品
山路商貝がらをよせあつめてダリヤの花を造ってゐる
アルルカレ(著者注:アルルカン)氏
馬の首のポリウムを研究している白色畫家
T型定規の法則を説明している海のツワモノども
これらの人々はパイロットのない空想である
△父親と子 坂本壽
子供にキット欲しいもの
小鳥はチョチョいにはにろ
役立つものなどとかなしきは
文字合せ一ツ二ツ三ツカキクケコ
お伽きかせといふのか
ばけものをきれと云ふのか
父にして見せよと云ふのか
可愛い奴よ
強くありたいよ
だといふのか
△眠れぬ夜に 田谷春夫(社会主義リアリズム)
どうしても眠れない 二時を聞く
明日の仕事を思って泣けそうだ
雨も降ってきた
腐ったとこ(著者注:ひ)から落ちる雨だれ
ポトンポトン頭にひびく
戦争がすむまで
とひはなほさぬと云った家主奴!
雨だれに
ひとりいらだってゐる
家族が五人
一人一人の寝息が
ちがってゐる
何も考へない何も思ふまい
明日の仕事に眠りたいだけだ
しづかに息をかぞへる