俳句・短歌 短歌 2022.06.10 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第67回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 この国に吾は生れて育ちけり立木乏しきひろらなる国 松山の松のみどりの長く伸び高麗雉子は鳴くべくなりぬ 夕づける日の衰へに遠山の裾べり寒く川光るかも
小説 『眠れる森の復讐鬼』 【新連載】 春山 大樹 赤信号無視の乗用車が、トラックに衝突し大破した。シートベルトをしていなかった重症の若者が搬送された、その病院の医師は… けたたましいサイレンの音が鳴り響いている。そしてその音は嫌な気持ちになる程どんどん大きくなってきて、すぐそこまでやってきたと思ったら突然聞こえなくなった。ERの自動ドアが開いて救急車から下ろしたストレッチャーを白いヘルメットと青いコートを身に着けた二人の救急隊員が中に運び入れた。ストレッチャーの上で、頸椎カラーを装着され、オレンジ色のクッションで頭部をバックボードに固定された若い男が苦しそうに冷…
小説 『ヴァネッサの伝言 故郷』 【第31回】 中條 てい 足を滑らせたユリアが川に落ちたのをファラーが咄嗟に助けに入ったが、水流は激しく、二人は抱き合ったまま流され… 前日はこの季節にしては珍しいほどの温かさで、午後になって少し雨が降った。そのちょっとした雨が、上流に残っていた雪を溶かして川は一気に増水したという。足を滑らせたユリアが川に落ちたのを、ファラーが咄嗟に助けに入ったが、水流は激しく、二人は抱き合ったまま流され、かろうじて流れの少し澱んだところで岩にしがみついた。バーラスが無事を確認して大急ぎで館(やかた)へ縄を取りに帰ったが、戻ってみると、もうその…