【前回の記事を読む】「御父上様は狂われたか?」一族の一大事に龍たちが集結
龍神伝説
「余は女の子だと思う!」
白龍が言うと、赤龍が反論した。
「いや、男の子じゃ! 最近、姉上様はきつい顔をしておられた。男だと顔がきつくなるらしい。でも、姉上様の顔はきついと言っても優しい顔立ちじゃ。それはともかく、余達のことはどうしたら良いものか?」
すると、羅技姫が強い意志をにじませて言った。
「我だけ龍王殿に上がる。幸を助ける為にこの方が良い。龍王様の命令には背けぬ」
「余の気持ちはどうでも良いと思っておるのだな」
赤龍は苦渋の表情をのぞかせた。
「龍王殿に上がらなければ貴方様にお咎めが及ぶかもしれぬ。私を妃にするのはどうか諦めて下され」
「嫌よ。私も龍王殿に上がります! 私達を守る為に姉上様は何時も辛い思いをされます。龍神守の里に居た時と同じだわ」
と、幸姫が間に入った。
「兄上、我らの妃を父上に渡すなど出来ぬ。余達は天上界の理を守っておるのに、父上自ら理に反するとは? 断じて許せぬ」
紫龍は幸姫を抱きかかえ、龍体に変わりながら東の空に向けて飛び立つと、幸姫は目の前で龍の顔に変わる紫龍を見て怖くなり、涙を流した。
「あーあ。幸姫を泣かしてしまった。紫龍殿は手荒いのう。そっと優しくしてやらねば幸が可哀そうじゃ」
「紫龍の馬鹿者。龍体になる時は自ら発する光で変化する様を見せぬものなのに、あ奴の頭は完全にぶっ飛んでおる。余も理に背く! 羅技、覚悟は良いか?」
「我は赤龍の妃じゃ! 龍王様の咎めなど恐れぬ!」
赤龍と紫龍は姫達を連れて飛び去った。翌朝、龍王殿には赤龍・紫龍・羅技姫・幸姫が理に背いた、と龍王の咎めを受けに恐縮して入って来た。龍王に睨み付けられ、どんな捌きが下されるか傍に居る従者達も震えていた。
龍王は黙って睨み付け、やがてこらえ切れず大声で笑い出し、羅技姫と幸姫を傍に呼んだ。恐る恐る龍王の前に行くと、龍王は二人に小さな声で言った。
「そなた達、正式に妃となれたか? こうでもしなければあの石頭の息子達はずっとそなた達を悲しめているであろう」
「はい! 龍王様!」
「わ、私も……でも、その恥ずかしいです……」
「余の息子達は生真面目過ぎていかぬ! されど余が決めた理に自ら背く訳にはいかぬ。許せ、悪戯が過ぎたかのう……。しかし、皇子達はまんまとひっかかりおったぞ! 実に面白い!」
「龍王様ったら!」
二人は龍王の頬に口付けをした。
その様子を見ていた赤龍と紫龍は唖然とし、拍子抜けしてひっくり返った。そして、龍王の悪戯だとわかると、天上界を揺さぶる大声でそれぞれ吠えた。