彼女は性的な興奮を呼びさますようないちゃつきまでは相手にも自分にも許容する余裕があるというのだろうか、男女の触れ合いはむしろ積極的に受け入れる。おまけに相手にも能動的に振る舞うというか、積極的に近づこうとすることもあった。

もっとも一定限度内というような尺度をおいているようで、その基準というものが来栖にとってはっきりとはわからない。はっきりと分かることは、将来の結婚相手以外には性的関係そのものは絶対に持たないことにするという、彼女流の人倫道徳めいた基準を設けているようだということぐらいだった。

ほかにも二、三人の男友達がいたようだが、来栖を相手にすると、彼女は唇への軽いキスや首筋、耳朶に相手が触れたり軽く噛むといったところまでは許すのだが、それ以上の体の触れ合いとか密着となると、全く受けつけなかった。

体をこのように寄せ合ってもよいとは彼女の基準に則っていることで、それ以上には深入りしない関係というものを持続させると決めていたのだろう。今もって彼女が設けていたと思える基準がはっきりとはわからない。

逆に彼のほうがリビドーに駆られて元気よく迫るといった態度を見せない時には、彼女のほうから来栖を積極的に誘惑するしぐさを見せることもまれにある。その折には、言葉でも彼に迫る勢いを見せるのだがいつも最後の一線は男に許さない。

よくいわれる「女は謎」という感懐は男にとってありふれた表白だが、真理とのさまざまなつき合いを通じ、彼のほうで思いつくのはいつもこの言葉だった。会った後の別れの場では、いつもこの感触だけが残るばかりだ。

それでも彼女は来栖の誘いにはいつも乗ってくるので、結果として短期に終わったが二人は淡々とつき合いを続けた。体の関係もないのでかえってわだかまりがなくて、仲間意識の親しみが徐々にわいてくることにもなる。結婚というような終着駅にまで絶対に行きつくことはないという安心感からか、その頃の来栖は真理にだけは何でも話せる心持になることがあった。

葛城も加わり三人でつき合っていた時にも彼女はどちらかというと寡黙で、葛城と来栖が交代で話題作りに励むという形が多かったが、二人きりになってもそれに合わせて彼女のほうは話の発端だけはよくしゃべり、あとは聞き役に徹して親身によく来栖の話を聞いてくれた。