一時きっかりとなった。司会の男性が口火を切った。
「皆さんこんにちは。司会をやります田伏明です。ただ今から、東活映画と関東テレビ放送の共同提携作品『山名戦国策』の制作発表記者会見を行います。この映画の制作にあたり概要などの発表は、製作の佐々木洞海さんにやっていただきますがそのあとご質問を随時承ります」
「その前に質問、ちょっといいですか」
テレビ放送の記者が手を上げた。
「はい、どうぞ。手短にお願いします」
「今日の記者会見の我々の最大の関心、主演をやる俳優の婆須槃頭氏がまだ席についておられませんが、どうしてですか」
「はい、そのことにつきましては、まだ本人の身支度が整っておりませんので、整い次第ここに来ることになっています」
「何だ、何だ、思わせぶりかよ」
「もったいぶらないで早く姿を見せろよ」
「あとから、はいどうぞってことになりゃしねえか」
会場の報道陣から不満が漏れだした。ざわつきだした会場が一瞬にしてしーんとしだした。みんなは何が起きたんだとばかり周囲を見渡しだした。壇上の正面にその男が座っていた。婆須槃頭だった。報道陣はまるで魔法でも見せつけられたかのようにみんなが口を開けた顔でいた。
「皆さん、少しお待たせをしたようです。『山名戦国策』で主演を務められます婆須槃頭さんです」
婆須槃頭は立ちあがった。会場にどよめきが起きた。
「すげえ、背の高さはダルビッシュか大谷翔平並みだぜ」
「全体の雰囲気が何ともすごいな。寄らば切るぞって感じだぜ」
記者の口々のつぶやきなど一向にかまわないかのように、婆須槃頭は口を開いた。まるでマイクなど必要がないような伸び伸びとした低音だった。
「婆須槃頭です。日本の報道陣の皆様には初めてお目にかかります。どうぞよろしく。私の故郷の日本で映画に出演できることにたいへんな喜びを感じています。ここにおられる大先輩の河村凛風さんや、製作の佐々木洞海さん、そして監督の新藤由美子さん、その他大勢の映画に携わる人たちと映画づくりに邁進できることを幸福に感じるものです。今日の記者会見が有意義に終わることを念じています」
それだけ告げると周囲のスタッフに軽く会釈して座った。