【前回の記事を読む】研究家も脱帽…クマネズミ社会の構造を裏付けた証拠とは?
クマネズミ捕獲作戦
外籠を加工するに当たっては、高さ5㎝の侵入口を作るためにバネのついた片方の入口下部分を幅5㎝切り取った。これにより、バネの取り付け部分までの距離が短くなり、バネを押し上げる力が弱くなったので、押し上げて逃げられるのを防ぐために入口下部にL字金具を取り付けてある。3日後の2月20日に点検に行くと、6台のうち3台の中のパンが減っていて、捕獲具周辺に持ち出されていた(写真1)。
捕獲具の中に入ったことは間違いないが、単に持ち出されただけで多くの個体が中に入って食べたとは思えない。この箱の外にあるパンの小片がいつまでもそのままにされているとは思えないので、ネズミたちの一連の行動のうち、途中のある瞬間を観察したことになる。
箱の入口の高さは5㎝なので、1匹ずつしか入れない。つまり、中で食べずに1つずつ運んで外に持ち出した個体がいて、持ち出してすぐに食べていないことが分かる。何故パンを持ち出してすぐに食べなかったのだろう? 中で食べるか、あるいは交代で箱の中に入って食べれば良いではないか? 少なくとも、1頭のネズミが豊富な餌を独占するために行った行為ではない。実に不思議な光景であった。
2月23日の点検では、6台すべての箱に入ったようで、合計65個のパンの小片がなくなっていた。多くのネズミが出入りしていると判断して6台すべてをロックモードに切り替えた。2月24日に回収に行くと、グループホーム内にいる人たちはネズミのことで大騒ぎであった。怖かった、寝られなかった、電話しようと思った等々、口々にどんなにひどい状況であったかを話し出す。
夕方7時頃からガタガタと音がし始め、夜中の1時頃に最もひどい音がしばらく続いたそうである。その後静かになったが、もう二度と御免だ、撤去してほしいと言われた。天井裏を確認してみて、我々も驚いた。以下がその時の観察記録である。
観察記録
回収する前の様子を再現した(写真2)。
中上、中下の捕獲具が、引き出されていた。その隣りが回収した6台の写真である(写真3)。
手前の3台が下で、奥が上に乗せてあった3台。右上の1台は入口が開いていて中のパンが食べられていた。残り5台は入口が閉まっているのに捕獲されていない。5台のうち、左上、中上、右下の3台には、毛が多く落ちているのが確認できた。左上の1台を詳しく見てみた。プラスチックの踏み板の片側出口付近に広く血が付いていて(写真4)、外側の、中の個体が触れられない部分にも血が付いていた。
血の付いた場所とは反対側にあるL字金具の一部が下方向に曲げられ、変形していて、設置した時とは異なった位置に、後で差し込まれたように収まっていた(写真5)。