家にはなるべく寄らず、寝に帰るだけにしていたが、やはり心身ともに疲れ果てて、この夏に母が米国に行って不在時の折には、不眠を理由に心療内科を受診した。怖い夢を見るなどの話をすると向精神薬を処方された。服用してみると、一気に意識がなくなるものの目覚めるときには不快感が強く、起きたあともすっきりしないため、飲むのはやめてしまった。
一人でいるのがつらいので元彼のところに身を寄せる機会が増えたが、気持ちを聞いてもらうことはできず、なんとなくセックスフレンドのようになってしまった。
友人とは仲が良いが、家庭のことを話すと引かれてしまうと思い詳しいことは何も言えず、一応課題である共同プロジェクトの話や恋バナなどはするものの、特にそれ以上親密になる友人はおらず、自分をわかってくれる人など誰もいないというあの索漠とした気持ちが強くなった折に、薬を処方量より大目に服薬して昏睡してしまった。気づいたらベッドの上で、枕元に妹のメモがあった。
「ちぃちゃんのバカ! 死んじゃったかと思った」
二度と薬は飲むまいと思った。薬は棄ててしまった。
〈危なかったね〉
「もうしません」
〈生きていてよかった〉
それまでは気持ちが動いても唇をかみしめるだけだった彼女が、うなずいて、初めて涙を見せた。
〈生きていて、よくここに話に来てくれて、嬉しい〉
そのまま彼女はさめざめと泣き始めた。
このあと彼女は、つらかったことを、感情を交えて話せるようになった。母親に対して、ボーイフレンドに対して、思っていたことを、訥々と語るのだった。