【前回の記事を読む】バルセロナ旅行中の夫婦が見かけた「一枚の白黒の写真」の正体
バルセロナにて
タパス
ピカソ美術館を堪能した後、時刻は既に午後七時を過ぎていた。スペインでは夕食の時間は遅い。通常のレストランは八時を過ぎないと開店しない。ぶらぶらと街を歩いた。到る所に「タパス屋」がある。差し詰め日本の居酒屋あるいは回転寿司みたいなものだ。色々のタパスがカウンターの大皿に盛ってあり、それを自由に選んで自分の小皿に取りテーブルに運んで食べる。それをワインと共に楽しむのが流儀だ。
私達は一軒のセンスの良い店を見つけた(というより、通りにはどこが良いか分からないほどたくさん並んでいるので迷った挙句、仕方なくこれだと決めたというのが正しい)。
威勢良く「いらっしゃい!」と叫んでいるのだろう「オラッ!」と声を掛けられてテーブルに案内されるのだが、もし言葉が分からないと「コラッ!」と怒られているような気がするかもしれない、と思うほど威勢が良い。
まず飲み物を注文してからタパ(単数形)をいくつか選んで食べるのだが、どれもこれも美味そうだ。注意しないと取りすぎることになるが、ふたつ以上食べないとタパス(複数形)を食べたことにならない。カウンターにずらり並んでいるタパスの他に、できたてのタパスの大皿を持って、掛け声よろしく客の注意を引くように店員がテーブルを縫って歩く。それが実にリズミカルだ。
ラテンの明るい雰囲気が耳に心地良い。食べすぎたなと思いながらも「これが最後」と運ばれてきたタパをひとつ取って終わりにした。
チュロス
既に私達は満腹だったが、娘にはもうひとつ目的があったらしい。チュロス屋というのがあってスペインでは大人気らしい。ガイドブックを見ながら目的の店をやっと探し当てた。
チュロスというのは細長い棒状の揚げ菓子で断面が星形をしている。それをドロリと融かしたホットチョコレートのお椀にどっぷりと漬けて食べる。
「うわっ! こりゃたまらん。食べられるかな?」と言いながら、娘が旨そうに食べるのを見て、おそるおそる一本手にとってみた。甘くて油っぽくて普段なら絶対に食べないが、折角来たバルセロナだからとつられて食べてみた。なるほどこれは若い女性が食べたいと思う代物だと納得した。
バルセロナの人は老若男女みんな旨そうに食べている。旅の思い出にと思って食べたが、実はとんでもないカロリーの摂りすぎだった。体中にコレステロールと体脂肪が蓄積されて、みるみる腹が出て行くのが分かる。「この旅の間は仕方がないか」と思いこむことに決めた。