祐介は実家暮らしでフリーターをしながら家と妹のためにお金を貯めていた。さほど稼ぎがいいわけではないだろうが、家族のために貯金をしている家族思いの祐介を気に入った。
仕事以外では親友二人とよく一緒にいるようで、それ以外だと家でギターを弾いていたり、私との会話を楽しんだりといった生活スタイルだ。まだ大学受験に本腰を入れていない私は学校では居眠りをして、夜になると祐介からの電話を待った。会話の内容は大体ヴィジュアル系バンドの歌についてで、私が好きだという曲を一緒に聴いてくれ、ギターで弾いてみせてくれる。
初めは音楽全般の話で盛り上がっていたが、だんだんと身内話に変わった。この人なら話を聞いてくれるかもしれないと思い、最初は両親がいるような素振りで話していたが、真実を打ち明けてみることにした。
「私の両親、離婚したんだよね」
「そうなんだ。辛かった?」
「その時はね。……ううん、やっぱり今も憎いや」
「じゃあ離婚せずにそのままがよかった?」
「それは……。離婚してよかった」
「みんな前に進めたんじゃん」
「だけど仲良い両親の子どもが良かった」
「……そうだよなぁ」
離婚したことを話したい気持ちと、話したことで重荷に感じて欲しくない気持ちが交錯していたが、祐介はその不安を打ち消してくれた。また少し心が軽くなった。祐介の包み込んでくれるような安心感と居心地の良さを毎日感じたくて、毎日電話してもらった。
「俺んちも小さい時にはオヤジがいなくて、俺と母親と妹の三人だよ」
祐介も自分の話をしてくれることが嬉しくて、私もしっかり聞こうと耳を傾けた。祐介の妹がある日を境にギャルになって反抗しまくった事、親が呼び出されたのに変わりに祐介が謝りに行った事、お母さんの料理が下手くそな事など笑いながら聞いた。お父さんについて尋ねると「知らないんだ」とだけ答えて、本当に何も聞かされてないようだったので深入りはしないことにした。