しかし、ことあるごとに娘に関心が集中し、娘が出歩けるようになると、義理の両親が娘を連れて出かけている間に家事を押し付けられ、実の両親が娘を遊ばせたいからと段取りをつけさせられ、土日は夫が娘と出かけるのに付き添い、それでどこかいい幼稚園を探しておけ、この子には早いうちに英語を学ばせよう、ピアノも学ばせたいという親たちや夫の要求に従って幼稚園や習い事を探す。習い事が始まれば送り迎えをする。そうして普通に家事をしてパートにも出なくてはならない。そして家族は誰一人として、この母親のことを助けなかった。事ここに至っては、この母親の忍耐が切れてしまうのもうなずけよう。
この母親が自分をみじめに感じるのに、大した時間はかからなかった。自分が夫や親たちの奴隷のように思え、娘が自分の子だとは到底思えない日々が続いた。これだけ聞くと、被害者はこの母親であって、周囲が毒夫、毒両親のように聞こえる。
しかしこの母親の真骨頂はここから始まっていくのだ。娘に物心がつくとすぐに、この母親の復讐は始まった。娘に夫や親たちの悪口を巧みに吹き込んでいったのである。
「お父さんは、男の子をずっと欲しがっていたのよ。だからおまえが生まれたときにはがっかりしてね……」
「お母さんがあんまり怒ったから、今はおまえのことを可愛がっているけれど」
「お父さんの気が変わらないように、お父さんの言うことは何でも聞くのよ」
「おじいちゃん、おばあちゃんはお母さんたちの結婚に反対だったのよ。跡継ぎの男の子を生むのを条件に許してもらったのよ。生まれたのが女の子だったから、家を追い出されそうになったけれど、必死に頼み込んでいさせてもらったのよ」
「幸いおまえが可愛かったから、何事もなかったように暮らしていられるけどね。でもあの人たちの可愛がり方ったら! まるでペットのようにおまえを扱うから、何度も何度もお母さんは怒ったりお願いしたんだよ。この子はペットじゃありません、大切な子ですってね」
「お父さんやおじいちゃん、おばあちゃんにとっておまえはペット、お母さんはペットの世話をする女中なんだよ」