ゴーゴーバーでの出会い

その日は何軒のバーをハシゴしただろうか。どの店へ行ったかも覚えていないくらい酔っていた。こんなに飲めるのも土曜の夜だったからだ。多分六、七軒は回っただろう。時計を見ると午前三時を過ぎていた。そんな状態、そんな時間でも、最後にもう一軒と思いノアズアークへ行こうと思った。

しかし、自分が今デルピラール通りにいることは分かるのだが、ノアズアークがどっちの方向か分からなくなっていた。自分でも飲み過ぎたことを認識していた。正嗣は辺りをきょろきょろと見回すも、見慣れた風景なのだが、どこに何があるのかさっぱり分からなくなっている。でも、酔いのせいなのか気分だけはいい。

適当に勘で行くかと思い歩き始めようとしたその刹那、誰かがシャツの裾を引っ張っているのを感じた。振り向くと、七、八歳の少女が左腕いっぱいに白い小さな花を通したレイをぶら下げて立っていた。

「一つ二ペソです。買ってください」

女の子は紺色のスカートに汚れて何ヵ所も破けた白いブラウスを着て擦り切れたビーチサンダルを履いていた。髪の毛は何日も洗っていないようでゴワゴワだ。でもかわいらしい顔立ちで、黒目部分が大きな目をしている。その大きな瞳はじっと正嗣の顔を見つめ動かない。

「それは何の花なの」

「サンパギータです」

「それじゃ、ノアズアークっていうバーに案内してくれるかい。連れてってくれたら買ってあげるよ」

「じゃあ、付いてきてください」

そう言うと、花売り少女はすたすたと歩き出した。後を追ってしばらく歩くと見慣れたノアズアークの入口が見えた。店内にはいつも通りの激しい音でディスコミュージックが流れていた。

「ありがとう。じゃあ約束だからね。二つちょうだい」

少女は腕から二つレイを抜き取り正嗣に手渡した。

「四ペソください」

「はい。おつりはいいよ。連れてきてくれてありがとう」

といって正嗣は二○ペソ札を少女にあげた。

「マラミン・サラマット・ポ(どうもありがとう)」

少女は満面の笑みでそう言うと、さっと(きびす)を返し今歩いてきた道を走ってもどっていった。正嗣は二つのレイを左腕に下げ店の中へ入っていった。