そして、引きずり下ろされた運転手の顔を見て、とっさに思いました。この男の人はぼくのためにわざとナスを落としたんだと。
けれども、フォールは兵士たちを相手にトラブルに巻き込まれたくなかったので、敢えてリスクを避け、ナスを元のところに戻しました。そして再び目を上げると、兵士たちが哀れな男に暴力を加え、痛めつけていました。彼らのやり方は実に酷く、男はすっかり怯えていました。その男もやはりアフリカ系の黒人のように見えましたが、兵士たちのように大柄ではなく、意地悪そうでもありませんでした。
兵士たちは、男の体を太いロープで何重にも縛り上げ、そのロープで、小さな中庭のような空き地の大きな樹に男をぶら下げました。彼らは卑劣にも面白がって男を揺さぶり始め、男はいのちだけは助けてと叫んでいました。その時フォールは、助けようと決心して検問所に戻りました。それに、彼自身、方角を知る必要がありましたから。検問所の交番の外で、木の椅子に黒人兵がむっつりした顔で退屈そうに座っていました。フォールは、英語を話せる人はいないかと、その怖そうな兵士に向かって、「英語わかります……? 英語話せます??」と訊いてみました。
すると、その兵士は、「ヤァ」のように聞こえる唸り声を上げ、もう一人の兵士が交番から出てきました。二人ともものすごく大柄で、威張っていて、筋骨隆々で、重装備していました。
フォールは、自分が大陸の向こう側に行くために、この運河を渡らなければならないこと、そのために方角のアドバイスとガイドが必要なことを、テキパキと説明しました。
二人の兵士は、フォールの話を嫌々ながら聞いていましたが、なぜか断ることはできないようでした。「そこにいたフォール」は、この法外とも言える「許可」をもらえそうなことに疑問を持つ様子もなく、ただ淡々と自分の必要を訴え続けたのでした。
そして、後ろを振り返って、樹に吊るされながら、なおも痛めつけられていた男を指さし、こう言いました。
「あの男の人をガイドに欲しいんですけど。私の道案内に」
この時、フォールの頭は信じられないほど明晰で、自分が何を求めているかをはっきり意識していました。小さな彼が、面倒くさそうな顔をしている黒人の大男たちに堂々と、あのような極端な要求を、まるで当たり前のように、突きつけているのは、本当に不思議でした。彼らがなぜ自分の要求を受け入れるのかフォールにはわかりませんでしたが、そんなことはどうでも良く、とにかく彼にはそこにいる権利が明らかにあるようでした。