置き去り

だけど、そんな記憶もない。

では、私が寝たあと、誰かが大きな荷物として、山まで連れてきたのか? その可能性も低いだろう。私はまたパニックに陥った。

映画館からの記憶がないことを、私は警察に言うべきか? 山から下りたら、私は真っ先に警察に行こうと思っていた。

なかなか、山を下りられないが、まっすぐに警察に行かなくては。それから、何かわかってくるだろう。

朝日を頼りにたった一人だけで、山道を下りた。

まるで、戦いを終えた戦士のように、足取りはゆっくりと、なかなかたどり着けない我が家に向かっていった。

山を下りても、知っている景色ではなかった。

最悪なことに、誰も歩いていなかったし、車も走っていなかった。

警察を探したかったが、探せる手段がなかった。

移動手段が車しかないような地域で、歩いているのは私だけだろう。

こんな山道を車が走ってくるだろうか? そんな不安を抱えて歩いていた私の耳に車のエンジン音が聞こえてきた。

車だ、助かった!

そう思った私は、その車に必死になって手を振った。

驚いた様子で私を見ていたおじいさん運転手は、私の話を聞くと、

「警察はここから遠いので、乗せていってあげる」

と、言ってくれた。

私は、車に乗り込むと、

「お願いします!」

と、手を合わせ、祈るように叫んだ。

警察に着くと、何もかも話し、相手の出方を待った。

警察官は、「まだ、事件とはすぐに考えられない」と言った。

そして、

「あなたは、山登りはしたことはありますか?」

などと、あまり現状を理解していないようなことを聞いてきた。

「もちろん、ありません! 少なくとも、パンプスとスカートでは」

と、嫌みたっぷりに返した。

「今日は9月21日ですが、あなたは何日からの記憶がないのですか?」

覚えていなかった。

9月になっていたことも、実は意外だった。

8月の終わりくらいに思っていた。つまりは、二十日くらい空白の時間があったと言っていいのか。恐ろしさが増してきた。