第1章 異変
そんな独創的で悩み多き少女の両親はともに教員であり、父親は隣町で中学の社会科を教え、母親もこの町で小学4年の担任をしていた。明日美に兄弟姉妹はなく、雄の黒猫が一匹同居しているだけである。家は古い木造平屋で後に二階部分を増築し、その二階が明日美の部屋となっていた。そして主屋の横には車2台が入るユニットの車庫が隣接していた。
家の陰には高さ150メートルほどの裏山があり、その際から樹齢200年ともいわれている欅の大木が、屋根に覆い被さるように枝を張り出していた。家の前には町道が通り、峠を越えて隣の集落へと続く。だが、トンネルが通り近道のできた今は通る人もほとんどいない。町の中心からさほど離れているわけではないのだが、周りに民家はなかった。
したがって街灯もなく、夜ともなれば無数の星々が輝き、それは絶景である。地上には天見家の灯りだけが闇に浮かんで見え、豊富な湧き水が沢を流れ夏は蛍が乱舞する。この地方でよく目にするありがちな山里の原風景がそこにはあった。
その日両親は、それぞれの学校の行事が立て込んでいて準備に忙しく、家には明日美と黒猫だけがいた。大学入学の準備はすでに整えてあるので、これといって何をするでもなく、このところの日課は次のようなことである。
昼近くまで寝ていると、空腹の愛猫レオにせかされてやっとの思いで起き、パジャマ姿のままでレオに餌を与えてベッドに戻り、しばらくの間グダグダと部屋のテレビを見る。スウェットのパーカーにジーンズと、普段通りのラフな服に着替えて階下の茶の間のコタツに入り、朝昼兼用の食事代わりとして好物のスナック菓子を食べる。さらにコーヒーを飲みながらまたもやテレビを見る。特に最近では、お気に入りの番組があったのだ。それは今人気のタレントが、MCを務める報道バラエティー番組だった。ここまでがいつものパターンである。