追跡サンプル
これまでのシートの観察において、その時点での記述内容もさることながら、漢字・文法の初歩的ミスや文字の大きさの変化も、学生・生徒の基礎学力や学習習慣、モチベーションのありようも判断できるのではないかと指摘してきた。とはいえ、本章で見てきた変化は数週間や数か月といったごく短期間のものであった。
もちろん、その期間中でも変化があれば十分観察可能ではあるが、より長期間にわたる変化を捉えることができればより有力なエビデンスとなるであろう。そこで、ここでは高校3年生の事前講義と大学2回生の導入講義の両方を受講したHさんとIさんの2 人のシートを観察してみよう。事前講義の受講時期を起点にすれば、導入講義はそこから2年経過したものであり、その差異を見ることでどういった変化が見られるのかが判断できると思われる。
まず、図表1にあるHさんのシートから確認する。この図の左側は事前講義(ただし、紙幅の都合でグラフ部分は省略)、右側は導入講義のもの(図表2)である。
これを見ると、講義内容のまとめ部分について、事前講義に比べて導入講義の方が的確に要約できるようになっている。また、講義内容を踏まえてイメージを膨らませる部分については、導入講義の方がより自分の意見を表明しようという意識が見えるようになっている。そして、一目見て分かることであるが、シートに罫線が引かれていないにもかかわらず、導入講義の文章は見事に水平に書かれている。そのためには定規を下にあてて書かねばならないが、本人に確認したところ定規は使っていないという。それに比べると、事前講義ではわずかだが行の流れが上下に揺れている。また、若干ながら高校時点に比べて筆圧が濃くなっている。