まず、それぞれの業務ごとのベンチマーク指標を計算するためのとても複雑な式が用意されていますが、都度、実情に合わせて見直しはしているものの、いかんせん大変複雑かつ怪奇なものになっており、極めて分かりにくくなっております。当然ではありますが、その算定式も業界ごとに式自体の形式やそれぞれの係数などもまったく異なっており、さらに、いろいろ算定式への導入が要求されるデータを集めて、計算された結果が、果たして実態の日々の業務活動とどう関わるのか、おそらく試算した担当者でもほとんど理解できないのではないか。確かに算出された結果によって、同業他社との比較がされ、上位1割から2割内に入るか入らないかのランクづけはされるものの、同業者と言っても大きな企業であれば、完全に事業内容が一致するはずがなく、そのランクづけ結果が今後の企業の経営方針や戦略に対して果たしてどういう意味があるのか疑問です。

結果として、現場の人間が多大な時間と労力をかけてベンチマークを試算し、定期報告書の一カ所の枠に記載するだけということになり、省エネ法の本来の目的である事業者のエネルギー使用の合理化に資することにつながっているのでしょうか。

ぜひとも政策担当者は、そのあたりの現場の生の声をもっと聴いてほしいものです。

前述した6割近いSクラスの中で、ベンチマークによって最優秀事業者を特定するということですが、お上から要求されているのでやむを得なく作業をして、結果を提出するという形骸化した業務となっていないか、そうした実態検証・フィードバックが必要ではないでしょうか。

本来は、このベンチマーク試算の結果を経営陣が報告を受けて、将来の自社の省エネルギー・エネルギー効率化向上のための活動・投資計画づくりを検討するように指示すべきところですが、単にベンチマークによって上位の1割から2割に自社が入っているかどうかが確認できるだけで、ベンチマーク自体のデータそのものは、その後の経営判断に資することはほとんどないと言っても良いでしょう。

せっかく現場が多大な労力と時間をかけて省エネ法対応のために集めたデータ類が、単に諸報告書の作成やベンチマーク算定のためだけのものとなっていることは、今後、日本企業の現場において大いに労働生産性を高めていかねばならないことへの助けになるどころか、足枷になっているのではないでしょうか。筆者としては、そのあたりの種々の疑問点が省エネ法の課題であると感じているところです。