「皿洗いなのに…?」
ある都内のホテルでアルバイトをしている時に、それは皿洗い係として、それで中国人の方やインドの人やらに交って、忙しくも日本人の僕はパントリーにおいて、小うるさい老人として、そこを仕切っていた。でも仕事は和気藹々‥‥‥。
だが僕は、一人だけ分厚くゴージャスな模様の絨毯の敷き詰められている宴会場に長靴のまま入って行ってみた。その宴会場に入ってみて驚いた事には、メインの貴賓席の大テーブル席には故高円宮憲仁親王妃久子様と、その御令嬢お二人、それに中曽根弘文参議院議員(元首相次男)、それに御結婚なされたばかりの久子様の一人の御令嬢の旦那様などがいらっしゃいました。
僕のようなアルバイトの皿洗い係りがなぜそんな場所に入れたか? というと、その貴賓席の大テーブル席で料理のサービス中にお皿をたくさん重ね過ぎたために、手を滑らせて皿を割ってしまったウェイターが居たので、その皿の後片付けの為に入ったのである。
宴会も始まり、宴もたけなわ、……しばらくサービスが続き、お客様は料理を幾品か食べ終わり、そしてウェイターたちは皿などの食器類を下げに洗い場に戻って来た。そして、その中でも若い男性のウェイターたちが、久子様のお嬢様がとてもお奇麗です~ネェ、とコソコソ話をしていたから、そこで僕も久子様のお嬢様に会ってみたくもなり、皿洗い係りの人間は普通にはそのような所には立ち入れず、それで仲の良いウェイターの一人に、「皿を間違えた風をして落とし、割って来い!」と頼んだのである。
そして宴会場の中に入り、久子様のお嬢様のご様子を確かめてみると、確かにとてもお奇麗であった。
どのような奇麗さ? また感じのお方だったか? というと、〈容姿端麗〉だったのは勿論の事、帰り際、パーティーがお開きになる少し前には、お席をゆっくりとお立ちになり、入口と同じ大きい両開きの扉からご退出なされましたが、居並ぶかなりの数の国民達に対し、出口付近まで行った所の少し手前で向き直り、新体操の女子選手の様な優雅さと、併せ持つ事バレリーナの様な柔軟性のある深々とした御挨拶をしてお帰りになられたのである。
〈かなり腰が低い感じのお嬢さん〉だな、と僕は思った。これは久子様の未婚の御令嬢の方の事。そこだけは特に記憶に残っている。その他の人の事は詳しくは覚えてはいない。他の結婚している女性には興味ないし、第一不倫になるし~ァ。
定年後にアルバイトで皿洗い係か何かしているくせに、〈そんな事?〉考えているなんて言わないでくれ!