父と重信さんとも共通していた。そして毎時限、わたしのことを想っていたなんてこと……感じたが理解できなかった。松之山で、愛撫の最中に耳元で、この君から僕以外のものを全部消して僕のものだけで作り直したいと囁いた。
わたしは浮かされているから性的な戯言だと思った。でも、変だこと。今になってそんなこと思い出すなんて。あの時のように思えっても無理だし、もっと深くっても、あれより倍くらい人生を生きた。やっぱり隠す。子供の付け文みたいだが捨てられない。
懐かしくて嬉しい。父と重信さんにちゃんと八汐を紹介しようと決心する。少し間が空くがわざとらしくなくていいだろう。
八汐が不安定だ。気を回したり、惚けて見せたり。
「お父さんと重信さんに並べられたら僕は餓鬼に決まってる」
眼が恨めしそうだったり悔しそうだったり。
「親に嫉妬するなんて」
すると仰向けになって脱ぎながら
「あなたの好きにしていいよ」
捨て鉢である。
「あなたは、意地悪しているつもりはないかもしれない、多分。だけど、苛めているんだ。僕に一番堪えるやり方で。あれから何も話してくれない」
「じゃ、苛めてあげなくちゃ」
八汐は苦しがって悶えるが、反撃もせず果てる。生方からの手紙、家に来るのは構わないが、留守にするから、ホテルに転送されて厄介だ。
父が電話をよこす。直接にはここを明かしたくない。彼は紳士だよ。失礼にならないように自分で断れ。二人は八汐をまだ知らないから。
まだ誰も。わたししか知らない。冠省木霊に耳を澄ませたが、何も聴こえなかった。僕が何も言わなかったからか。言ったが届かなかったからか。
もう一遍、いや、木霊が返ってくるまでなん遍でも呼ぶさ。逢いたい。なんであの時あんな莫迦な真似を大真面目でしたのかわからないんだ。君わかるなら教えてほしい。わかったから、結婚するんだろう? 祝福させてもらうよ。
その前に、僕を助けて。あの時僕は何に溺れていたんだ? 今は束の間再会できたばかりに愚かだった自分を嗤い、勇気がない自分を蔑まなければならない。
人知れず身悶える。君も知らないと言うか? 見捨てるか?
どうか電話を。番号、も一度書いておく。一日三秋にて待つ。