生態系と雑草の関係性

一方、雑草は生態系の一次生産者としても重要な役割を果たしています。写真2に示すクロナガアリはイソップ童話の「アリとキリギリス」に登場する働き者のアリのモデルで、日本に生息する唯一の植物の種子だけを餌にする収穫アリです。

[写真2]セイヨウタンポポの種子を運ぶクロナガアリ(小笠原)

クロナガアリは春の暖かい日中に行われる巣別れと、秋の一時期にメヒシバやエノコログサ種子を集めるために外に出る以外は、一年の大半を地中の巣の中で暮らしています。

雑草種子は暗くてしめった場所に置かれると発芽しますが、なぜ、巣に運びこまれた雑草種子が発芽せずに長期間貯蔵されているのか不思議です。蟻酸カルシウムのような物質が雑草種子の発芽を抑制しているのではないかという説もありますがよく分かっていません。

また、スミレやホトケノザもアリと深い関係にあり、これらの植物はアリ散布植物と呼ばれ、アリによって分布を拡大することが知られています。写真3および図1に示すように、スミレの種子には糖、脂肪、アミノ酸を含んだ種枕(エライオソーム)と呼ばれるものが付いています。

[写真3]ホトケノザ(Lamium amplexicaule L.)(小笠原)
[図表1]アリ散布植物とアリの相利共生的な関係(小笠原)

アリはスミレ種子を餌としてせっせと巣に運び、糖やアミノ酸は食べられてしまいますが、種子の本体である胚や胚乳は食べ残されることから、結局、雑草種子は栄養分や通気性に富んだ土中に播種され、生育地が拡大されることになります。

このように同じ場所で異なる生物が互いに利益を得る関係を相利共生と呼んでいます。アリとの関係の他にも、ヒメジョオン、セイヨウタンポポ、シロツメクサなどはミツバチの貴重な花粉源や蜜源になり、カタバミはヤマトシジミ、カラムシはアカタテハ、スミレ類はツマグロヒョウモンの食草になっています。