俳句・短歌 短歌 2021.12.20 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第36回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 靄青く漂よふ夕べ地震ぢなへして 貨物列車が長く通れり たたなはる智異の青峯あをねに雲上りて たなびく見れば神さびにけり せばまりし峡の奥空清しけれ 智異の高峯たかねの青く照る見ゆ
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『魂業石』 【第15回】 内海 七綺 母唯一の功績は、私を美人に産んだことだ。ブルドッグ顔の母、ハダカデバネズミの父…いざとなれば母も殺せばいい。 「伸親さんは、虫も殺せなさそうだって言ってるけど」「伸親くんは見る目がないのよ。あれでよく刑事なんて務まるわね」「警察官」「うるさい、どっちでも一緒でしょ。従妹の明菜(あきな)ちゃんの怪我だってあんたが……」「懐かしい名前ね」明菜は同い年の従妹で、成人式の直前に浮かれすぎて階段から落ちて足と腕を骨折する大怪我をした不幸な子だ。肉づきのいい体で階段を転がり落ちる様子は、今思い出しても傑作だった。景…