「父上。保繁殿を信用して良いものでしょうか……。我には何か企んでいる様に思えて気になるのです」

「保繁殿は大らかで気さくな御方じゃ。戦を仕掛けて来る事はない。幸を御長子の保些殿が嫁に欲しいと言われておるのに……」

疑う事もなく、笑顔で手を振り保繁一向を見送っている父親を、羅技は不安に感じていた。

数日後、保些から幸姫に文が届いた。しばらく文を交わしていくうちに、幸姫は文面から感じる保些の優しさに触れ、やがて慕っていった。

保些からの文を、わざわざ奥殿より羅技の館に来ては読み聞かされて、羅技はほとほと困っていた。しかし、嬉しそうに微笑む幸姫を見て、我一人の取り越し苦労であったか……と、安堵した。

 

月日は流れ、幸姫が嫁ぐ日が決まった。阿修の保些の元へ嫁ぐ前日の夕暮れ時、姫達の住む奥殿では、幸姫の髪をすく清姫と紗久弥姫が楽しそうに話していた。そこへ突然飛び込んで来た羅技を、紗久弥姫が両の手を広げ、この先に行かせまいとした。

「だ~め。ここは男の人は入っちゃだめよ。兄上様に寝衣の姿を見られるのは私……恥ずかしい。兄上様の泥で汚れたお姿……とても汗くさ~い」

「あっ! すまぬ。急ぎ、身なりを整えて出直す。今日中に幸姫に渡したき品がある!」

「羅技殿! どうぞこちらにおいで下さい。紗久弥は兄上様をお通ししなさい」

と、清姫が間に入った。

羅技は嬉しそうに歩み寄ると、懐から大事そうに包みを取り出し幸姫に渡した。

幸姫がそっと包みを開けると中には、白く透き通り虹色に輝いた、長く美しい領巾があった。