【関連記事】「病院に行って!」背中の激痛と大量の汗…驚愕の診断結果は
英会話教室と職探し
政裕が仕事を探していることを知り政府の職業安定所の場所を教えてくれたので早速訪れた。
大勢の求職者が押しかけていた。当時はカナダの景気は低迷していて失業率が高い状態が続いていた。日本でカナダ移住を申請した時審査基準が高かったのはこれが理由で、エンジニアの仕事は特に就職難だったのである。
ミスター‐ディーンがスポンサーになってくれたのは幸運中の幸運だったことになる。職業安定所の職員と面接、早口の英語で聞き取りが難しかったが、できる限り英語がわかるようふるまった。だが、今お前にできる仕事の求人はないよといわれて退散した。
リーさんにそのことをいうと、英語ができないと思わせるべきだったといった。それだと、英語の学校に行きながら移住者に対する生活保護が受けられるということだ。
政裕は職安ではらちが明かないので自力で探すことにし、引っ越し荷物の中からタイプライターを出して履歴書を打ち始めた。
移住ビザのスポンサー探しと同じようなことになったが芳しい反応はなく時間だけが空しく過ぎて生活資金の蓄えも減るばかりだった。希望に燃えて日本を出た時は浮かれていたのだろう、容易く仕事が見つかるものではない。計画が甘かった。
どうやって家族を支えていくのか、どうすればいいのかわからない。こんなことは予想していなかった。たまらない不安が日に日につのった。
暇をもてあましていたある日、一人で思いに任せて町を外れ、田園を北へ北へとドライブに出かけてみた。たどり着いたある小高い丘に登ってみた。果てしなく広がった針葉樹の森と点在する湖が青い空の下に延々と目の届く限り続いていた。
人影はなくただ肌冷たい風が吹き渡ってきて、白いちぎれ雲の群れが流れていた。寂寞とした風景だった。呆然と見ているとたまらない寂しさと不安に襲われた。