気に入って買ったのに
半年引きずった。高級書斎家具を奮発したのに棚板が全部崩落した。気に入って買ったのに。書庫だ書斎だは名ばかり、高級家具の残骸と崩れた本の山で被災家屋の体である。復旧しなければならない。
誰もいない。独力で、DIYできるものだろうか。恐る恐る、ほとんど決死の覚悟で、人伝てで手に入れたウォルナット端材をトートバッグに詰め込んで、電動自転車で中央道の高架の日陰を探し回って、看板の目立たない木工所に辿り着いた。
ところが、らしくない。材木置き場とか、おが屑の匂いとか、チェーンソーの唸りとか、職人の喚き声とか、何もない。ひっそりした駐車場の奥に巨大なシェルターが口を開けて、薄闇の底に何人か見えて、作業をしているには違いないだろうが、気が付けば昼下がり、通りに人影もなくて、怯んでしまった。
べそかきそうな気分だが、決死の覚悟だ、声を励まして
「あの。お仕事邪魔してすみません。これ寸法測ってきたの、截っていただけませんか」
エコーのあとが静まり返って、奥の方から
「ここじゃだめなんで、事務所に行って」
と男の声。はあ……事務所……ぐるりと躰を回して見ても……
「自転車停めた脇の階段上がって」
なんだ、怖気づいたのを視てたんじゃない。自転車まで戻って、土木工事の現場事務所みたいな矢印に目線を合わせて見上げると、眩くて見えないほど高くまで鉄板の外階段が架かっている。もう一度怯む。
上がりきるなり開けっ放しの引き戸の中が事務所で、覗き込んで昏さに馴れたら、フロアの片側に並んだデスクの真ん中あたりから中年の男が視ていた。深呼吸して
「あの。板切れを……測ってきたので截っていただけないかと……」
「なんに使うの?」
と立ってくる。
「……本箱を、五つ新調したのです、幅が半間くらい。本を載せたら、棚板が全部落ちちゃった。情けないったら……だから、半間の真ん中に突っ支い棒と、両サイドも膨らんじゃったので、壁との間も突っ支おうと……」
お判りにならないでしょ、説明が下手で。視れば一目瞭然なんだけれど。
男は訊いておきながらどうでもよかったように出てきて、大きいバッグを捥ぎ取って
「急だからね、掴まって下りなさい」