第一章 宇宙開闢の歌
笹野と内山はホテルに戻った。
初日の取材は時間が足りなかったことと、取材初日ということもあり妙に硬くなり、失敗だと見て取れた。笹野は婆須槃頭の印象をどう清算してよいのかまとまりがつかなかった。
翌日二人は七時にホテルを出た。今日こそはの意気込みで二人は気力を横溢(おういつ)させていた。撮影所の通用門で守衛の許可を取り、スタジオめがけて真っ直ぐに歩こうとして二人は雰囲気の異常さに気付いた。
撮影所内の駐車場におびただしい数の車両が陣取り、降り立った人数が尋常ではなかった。皆、手に手にカメラ、録音器具、照明器具を携えて変に殺気だっている。
欧米系と思われる報道陣が大部分だったが、中には東洋系の容姿や、一目でインド系と分かる報道陣も散在していた。
笹野と内山は唖然として彼らを見つめていたが、自分らの取材と目的が同一ではないのか、優先権はどこにあるのかとの疑問で、不安が頭をもたげ始めた。
報道陣の中に笹野の知っている顔も何人かいたが、その一人が目ざとく笹野を見つけると声をかけてきた。
「やぁ、ミスター笹野! 久しぶりだな。君までここにいるとは知らなかった」
「ミスターワイズマン。僕も同感だ。元気そうで何よりだ。今日は随分と大勢のようだが何の取材だ」
「ここの撮影所で撮られるインド映画なんだがね。アメリカ資本と、技術、キャスト、その他が膨大に組み込まれると聞いて、取材に駆け付けたわけさ。中でもプロデューサーの一人が大物と聞いてみな色めきだっている」
「へー、でそのプロデューサーというのは誰なんだ」
「知らないのか、P社のアイザック・ハマーシュタインだ」
笹野はぎょっとした。その男こそ今日、笹野たちがインタビューしようとしていた相手に他ならなかったからだ。笹野が口ごもったのを見て、ワイズマンは畳みかけるように言った。
「とにかくだな、ハリウッドがいよいよ本腰でインド映画を吸収合併しようとしているのを見逃す手はない。それでみんながニュースにしようと乗り込んだんだ」
笹野は当惑した。自分たちの聞いていた情報では映画はインドの資本で日本人監督、日本人主演、アメリカの技術提供で、製作陣にハマーシュタインが名を連ねていても、それで即ハリウッド映画になるなどということはあり得ない、と聞いていた。
しかし、ここの取材陣は皆、ハリウッド映画がインド映画を買収せんと決めつけてでもいるかのごとく振るまってはしゃいでいる。
「デービッド、実は僕たちもそのハマーシュタインにインタビューを申し込んでいるんだ。時間的にどうなっているんだ」
アメリカのニューヨークジャーナル記者に、笹野は気軽に名前で呼びかけたが、反応は意外なものだった。
「笹野、この件はまず当社のスクープとしてトップにあずからせてもらう。まずは我々が最初にインタビューを行うことにする。君たちはその後ということになるな」