「昨年秋の選挙で当選された若い議員さんなんですけど、同じ会派の議員さん四人とみえまして、これはミステリー・サークルで、しかも人為的に作られたおそれがある。何かの犯罪に関係しているとみられるし、また、小動物を殺すといった異常性が幼児や高齢者、身障者への兇行にエスカレートする可能性もある。役所と警察は至急何等かの対策を立てるように、と、まァ、申し入れしてきたのです」

「それは、おおごとになりましたね」

「はい。しかし建前上は議員さん方の言い分は正しい。そこでとりあえず公園を監視するガードマンを配置しようということになりまして、野原さんの会社にお願いした次第です」

役所が何かしているという姿勢を見せる必要があるのだ。それにはガードマンが一番人目につきやすい。議員達も手柄顔ができる。

「そんなわけですので、一応十日間お願いしますが、延長をお頼みするかも知れません。その時はよろしくお願い致します」

小原係長は丁寧に頭を下げた。延長とは有難い。十日間延長してくれれば八万円の収入になる。それから二、三、事務的なことがらを打合わせた。朝の出勤確認は、私が朝九時に公園に着いてパトロールを開始する前に、役所へ電話する。終了は五時四十五分にパトロールをやめ、報告書に記入の上、直接公園課へ届ける。確認証は十日間が終了した後、小原係長がまとめて承認印を押してくれる。

その様なことで双方了解し、小原係長は役所へ帰っていった。

会社へ電話して、吉田に打合せの内容を伝えた。やっぱり自転車にしてよかったじゃない、と得意気に言う。バカバカしくて電話をきった。

それから先ず公園の外側を廻ることにした。国道に面していない方、つまり公団住宅やいくつかの建物に接している側は、狭い道に車が駐めてあったりして、かなりの大廻りになる。一周十五、六分か。これを目安にパトロールをする。内側は廻るというより、行ったり来たりになるだろう。

ガードマンの制服姿を見せるのが目的なのだから、常にガードマンが見えるような位置について、ゆっくりと歩きだす。

と、私の歩く少し先に鳩が二羽、舞い下りてきた。続いて四、五羽が次々と飛んできた。

私の前へ廻ったり、後方からついてきたりする。ここで餌やりをしている人間がいる証拠だ。厄介なことになるかも知れない。

鳩は無論のこと、野良猫や野良犬に餌を与える人は多い。そして彼等なりの論理を持っているので、止めるように言っても聞く耳を持たない。

そしてその土地に居住している人達と、餌やりをする人達が対立して、間に入った我々警備士がサンドバッグになることがある。

なるべくなら餌やりの人に来てほしくない。

そこへ羽音も高くカラスが二羽下りてきた。鳩が飛び去って行く。餌は貰えないと諦めたか、それともカラスを怖れたか。

結構通行人が多い。ほとんどが駅の方へ向かっている。通勤、通学の時間帯は過ぎているが、裏の方の住宅街の人達が買物にでも行くのだろうか。そういえば駅の近くやその先、国道の先の方もどうなっているのか、一度見ておく必要がある。