結果的に、何とか人工透析をせずに済んだものの、治療方法は前代未聞のステロイドパルス療法だった。1回あたり約1000ミリグラムのステロイドを点滴で流し込み、それを週に1回、1ヵ月かけて行うとのことだ。そうでもしないと命の保証もないと言われた。
看護師さんもあまり経験がないのか、なかなか点滴のラインが取れず難航した。やっとのことで右手首のところに一ヵ所、そして右足首に抗血液凝固剤を入れる点滴のラインを取った。この作業がとても苦痛に感じてしまい、僕は「毎度点滴後に抜針すると今度の点滴の血管確保が難航するから、それは嫌だ」と申し出た。その提案は、ベッドで寝たきりになることを指すのだが、何度もラインをとる痛みとの闘いに嫌気が差した愚かな言動だった。
点滴開始1回目、気分がふわふわして気持ち良くなる。何もおかしいことなどないのにケタケタ笑ってしまう。主治医も親も心配そうに見ていた。2回目も同様にケタケタ笑い出してしまう。お腹の皮膚がピリピリと痛痒い。3回目、4回目にはお腹や腕足の皮膚が裂けた上に、お腹がボンっと出てしまった。
そんな臨床実験的な治療を見に、研修医がたくさん群がり、僕のお腹を見学しにくる。なんとスケッチまでするのだ。主治医も主治医で、何だか誇らしげにスケッチする研修医に説明する。「何やってんだ! そんな実験みたいなことして楽しいのかよ!」と僕は心のなかでは大変怒っていた。でも、主治医は涼しい顔。「気分はどうですか?」なんてふざけたことを言う。「このお腹どうしてくれんの!」と叫びたかったが、命と引き換えにできた痕であった。文句は言えなかった。
美味しくないけれど入院中の唯一の楽しみな食事。それがある日の朝食では、大きな茶碗の底に申しわけなさそうにご飯がちょこんとあるだけだった。何かの間違いではないかと、ナースコールして看護師さんに「ご飯がほんの少ししかないんだけど、どうして? 何かの間違い?」と言うと、「ハタナカさんは昨日から1200キロカロリー食になったからです」だって。
ステロイドを飲むと空腹感が半端ないが、動かない病人は1200キロカロリーで充分。だけど、食べ盛りでもそんな状態になっている僕は猛烈に抗議した。主治医には泣きながら怒った。当然の処置だし、下らない言いがかりなのだがショックと怒りで1週間くらい怒って抗議していた。親や、親戚にも電話で泣いて訴えた。主治医は呆れかえって、とうとう主治医が変更になった。
次の新しい主治医はカロリーなんか気にしない人で、2200キロカロリー食を出してくれた。ご飯大盛り! ご機嫌だった。ここまで書いていてなんであるが、なんと我儘で下らないことで怒って迷惑をかけたんだと思う。反省。そのうち治療は投薬へと変わって行くが、ステロイド剤の効果があまり見られない。そこで、効果が1.5倍強いソル・メドロールを服用することになった。もちろん副作用も1.5倍。顔なんかもうパンパンどころではない、酷いものだった。