矛盾と迷走
それは蓮が小学低学年の頃の事だった。
「お母さん。蓮君の血液型は、O型ではなくB型でしたよ」
「え?」
「蓮君の血液型検査は、いつされましたか?」
「多分、あの子が生まれてすぐだったと」
「生後間もない赤ちゃんの時に検査した血液型は、正確ではないこともありますからね」
「あの、看護婦さん」
「どうされました?」
「息子の血液型、B型だということは言わないでもらいたいんです」
「え?」
体調を崩した蓮を病院に連れて行き、血液検査をした結果はB型だった。その時初めて、蓮の血液型がB型だということを有花は知った。
生後間もない赤ちゃんの血液型は、まだ抗体がつくられていないことから、その時にO型という結果であっても、実際はA型であったり、B型である場合があるという。
蓮が生まれてすぐの血液検査では確かにO型という結果であったし、永吉も有花もそれを疑う筈もなかった。しかし本当はB型だということが連に知れてしまったら、蓮はショックを受けるだろう。
「まだあの子は、自分のことをO型だと思っているんです。今B型だと知ってしまったら、何と思うか……」
「ええ。分かりました」
その時から有花は、蓮の血液型がB型だという事を、誰にも話さずに、今まで生きてきた。そして、誰との間にできた子どもなのかという事も。
いつかは話さなければいけない日が来るだろうと思っていた有花にとって、その話が蓮の口から出てくるとは予想もしていなかった。あの子に何と言ったらいいのだろう。私のことをどう思うだろう。
蓮の気持ちを考えると、益々その事実を受け入れることができないでいた。
「もしもし」
「おう、どうした、蓮」
蓮はとっさに携帯を手に持ち、謙介に電話をかけていた。
「今、大丈夫か?」
「ああ、丁度仕事が終わったところだけど。どうした?」
「この前の話、覚えてる?」
「この前のって、あの血液型の話か」
「ああ」
「それでどうだったんだ?」
「やっぱり、親父はA型だったんだ」