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キムチ溶岩
日曜日のお昼は、舅と二人きりだった。子供たちは友達と遊びに出かけて留守だった。姑は、行く先は聞かなかったがお洒落をして出かけて行った。伯父は、居間の定位置にいつも通り座り静かに一人で食事をする。
台所は、十六畳ほどの空間を所有していた。システムキッチンも広く、大人三人が一緒に立っても楽に調理ができた。冷蔵庫は二台あり、一つは、舅の専用の冷蔵庫。食べることが趣味のような人だから、大好物の肉や魚・野菜は自分で買い物へ行き、吟味して選択し長い時間かけて購入してくるのを知っている。
一度だけ、スーパーへ一緒に買い物に行った時(なぜ一緒に行ったのかは不明なのだが)、食材を一つ一つ手に取り品定めをする姿を後ろから見ながら、時間がもったいないなぁと思ったことがあった。確かに、良い品物を見極めることは大切なことだが、そこまでしなくても良いと思っていた。食べることに対して、非常にこだわりのある人だった。
だから、冷蔵庫はいつも食材でいっぱいになっていた。舅は、自分で調理もした。お世辞ではなく、上手だ。多少、塩味が濃いと思う時もあるのだが総体的に点数をつけると八十点くらいか、それ以上の出来ばえだった。おからは特に美味しかった。
もう一つの冷蔵庫は、子供たちと私専用だった。私の母が嫁入り道具の一つとして送ってくれたのだ。三段式で、一番上は、冷凍庫になっていてアイスクリームが常時入っていた。子供たちは、夏はもちろんのこと、真冬の寒い日でも冷たいアイスを裸足で食べている。私もアイスクリームは好きで、特にバニラ味は好んで食べた。
中段は、冷蔵庫になっており、ゼリー、プリン、牛乳、スポーツドリンクなどが入っていた。下段は、野菜室で、だいたい決まった種類の野菜が入っていた。こちらは、スペースを保ちながら保管していた。省エネタイプの冷蔵庫でも、あまりビッシリ入れると電気を消耗すると聞いていたためだ。
電気製品のメーカー戦略は、消費者のマインドに届くキャッチコピーを打ち出し、それに促されて購入する。メーカーを信用してのことである。需要と供給のバランスがとれている。
昨夜の季節外れのキムチ鍋に、ネギと豆腐を新たに足して、キムチの素を入れ、卓上カセットコンロをテーブルの中央に置いて温めた。土鍋のためなかなか温まるまで時間を要した。他には、ほうれん草のゴマ和えときゅうりとナスの即席漬け、ご飯、みそ汁を準備した。
昼食の準備が整ったので、二階の居間にいる舅を呼びに行った。舅は、普段通りテレビを見ていた。テレビのボリュームが大きかった。長年の仕事と加齢で聞こえが遠くなったらしい。いつも大声で怒鳴っているのは、そのせいかもしれないと、ふと情けを感じた。がすぐに取り消した。
「お昼ができました」と声をかけた。
台所へゆっくりとした足どりでノシノシと入り、いつものポジションにドカッと座った。そう、舅は肥満の体型なのだ。九十キロと記憶にある。美味しい物はお腹一杯食べて動かない生活を繰り返していれば、そうなるのは当然だ。言わば自業自得である。スーツやジャケットは全てオーダーしていた。既製品は合うサイズがないのだ。
ご飯とみそ汁をよそった。舅の第一声が発せられた。
「何だ、具が足りないな。肉がないな」
ネギと豆腐は足したが、豚肉は入れていなかった。キムチ鍋を真ん中に挟んで、対面での絶妙な配置が吉と出るか凶と出るかは、これからの舅次第。予想は決して裏切らなかった。私は、一口も食べずに次の瞬間レディゴーのゴングが鳴ったのを聞いた。カーン‼