「宮﨑君は、ご自宅は?」
「僕は、隣町からきました」
「隣町? 隣って、どっちの隣?」
「えっと、向こうの方です」
蓮は自分が住んでいる方角を指さして答えた。
玲美は蓮が指す方を見て、また顔を元に戻した。二人で顔を見合わせて微笑んだ。
玲美はコミュニケーション能力が高く、様々な話題を蓮に振った。自分から話し掛ける事が苦手な蓮は、玲美の質問に喜んで答えた。
それから二人は、授業の合間に好きな音楽の話や、学生時代の話をしては距離を縮めていくのだった。
永吉との関係は相変わらずで、蓮は、毎週日曜日には必ず永吉の実家に向かった。
その日は、永吉と祖母と三人でテレビを見ながら、居間のソファーで寛いでいた。
しかし、何だか永吉の様子がおかしい。
普段はよく永吉から、仕事はどうか、兄の省吾は元気にしているかとしつこく聞いてくる。
だが今日といえば、最近話題になっている映画の話をした程度だ。
蓮は、あおいさんと何かあったのだろうかと気になり始めた。
永吉は、一息ついてから、ようやく話をした。
「そういえば、この前の、あの血液型の話だけど」
(なんだ、親父はその話を覚えていたのか)
永吉とその件を話すのは二週間ぶりの事だったので、いきなりその話を切り出されて、蓮は一瞬ドキッとした。
「ああ、俺がB型っていう話か」
「そうだ、その話なんだが。一度、DNA検査を受けてみないか?」
「DNA検査?」
何しろ、あおいちゃんがDNA検査を受けてみてとうるさいんだと、永吉は面倒臭そうに言った。
内容は、永吉と蓮の間に、本当に血縁関係があるのかを確かめたい、という事であった。
「そうか」
蓮はあれから、血液型について有花に真実を確かめてはいなかった。
それは俺から話すべき事ではない、むしろおふくろが俺に対して真実を話すべきだ、そして俺に謝るべきだと、思っていたからだ。
しかしその件について、有花からは何も話はなかった。蓮の有花に対する不信感は、やがて憎しみへと変わっていくのだった。
血液型がどうであれ、親は親、子は子だ。そこまで深く考える必要はないだろう。
しかし蓮にとって、この問題はそう簡単に済まされるものではなかった。大人達が自分をここまで苦しめておいて、その一言で片づけられては煮え切らないのだ。
確かにあおいさんの言う通り、親父との関係もこの際はっきりさせた方がいいかもしれないなと、蓮は思った。
しかしそれでも、有花との問題が解決しない事は、蓮には分かっていた。
でも、もし血縁関係がないと証明されたら、今目の前にいる親父との関係はどうなるのだろうか。