佐藤は、

「約束ごとは、実行していただかなくては、困ります。早急に流用分を補塡し、高梨副社長に預金通帳を引き渡して下さい」

と厳しい口調で言った。更に、李は、

「貸付金について、KDP株式の増資分払い込みのため、私個人が借りた四千五百万円は、担保株券の返済で相殺したい」

と再度言った。しかし、佐藤は、株券の時価評価による評価減と、為替差損が生じ、DPにとって約五千五百万円の損金が発生するので、

「本件は、当社で検討しご返事します」

と即答を避けた。一方、

「共立商事に対する貸付金は、KDPに全額入金しており、一部雪岳山観光開発への投資の失敗もあるが、会社設立当初無報酬でやったので相殺にしてほしい」

と勝手な言い分を捲し立てた。伊藤が、

「ソウル近郊にある権さん名義の土地を売却して支払ってもらいたい」

と言ったところ、

「四〇〇坪、時価約一億ウォンであるが、家内の同意が要る」

との返事で、どうやら返済する意思はないように思われた。佐藤は、李社長とDPとの設立以来の経緯を調べれば調べるほど李が、信頼出来る人物ではないとの印象を日増しに強くした。

KDPの経営をこのまま任せれば、今後も独断専行が予想される。

したがって、設備計画の再検討を行い、このまま承認するか、あるいは中止するかの結論を出して理事会に掛けると共に、李社長の退任、これが難しいようであれば、形だけ何らかの地位を準備すべきではないかと考えを巡らした。

佐藤は、ディックの子会社であるDKエンジニアリング株式会社の高岡副社長を訪問し、設備図面と、業者との契約金額について妥当かどうかのチェックを依頼した。

同社は、韓国でも設備工事を手掛けており、本来であればグループの設備は、同社に発注するか、そうでなければ、監理を依頼するのが常だった。

一週間もしない内に、高岡副社長から連絡が入り、

「当社が韓国で受注すれば、少なくとも三〇%は安く出来る。李社長が大分懐に入れているようだね」

と言う。