事故に遭った妻は…
四十九日の法要が無事に終了したのは、午後三時頃だったが、達郎は、そのまま横浜のマンションには戻らずに渋谷に出た。そして、大手の書店に入り、ビジネス書のコーナーに向かった。
達郎は、陳列棚から分厚い会社職員録を取り出した。この本には、上場企業の管理職以上の氏名が載っている。達郎は、百貨店のページをめくった。まず、竹坂屋が載っていた。
代表取締役会長、社長をはじめ、専務、常務、取締役などの役員の後に、本社各部の部長が載っていた。氏名の他に、生年、出身都道府県、出身校、入社年、趣味、そして現住所が列挙されていた。本社の部長が終了すると、各店の店長の名前が並んでいた。
あいにく、この百貨店には、シンノスケという名前の店長はいなかった。次に、東海百貨店、これも同様に探したが、どこの店にもシンノスケという店長はいなかった。達郎は、この作業を何度も繰り返した。東京都内に本社があるものだけではなく、地方の百貨店もあたった。
しかし、シンノスケという店長はどこにもいなかった。おかしいなあ……店長クラスなら、絶対に載っているはずなのだが……達郎は、首を捻りながら、その本の発行年月日を見た。―平成四年七月一日発行―去年の七月か……ということは、少なくとも七月以降の人事異動の結果は網羅されていないということになる。
それを知るには、今度の七月まで待たなければならない……だが、店長になるくらいの者は、その前の段階からどこかのセクションの部長クラスに名前を列ねていたっておかしくはない。そこで、店長の名前以外にも、つまり、部長クラスの中にもシンノスケという者がいないか、もう一度百貨店の初めのページに戻って、調べ直した。
それにもかかわらず、シンノスケという名前の持ち主は、どこにも見当らなかった。もしかしたら、この当時、まだ店次長であったかもしれない。残念なことに、店次長は掲載されていなかった。達郎は、この職員録による探索は不可能だとあきらめた。