ただ、なんなのだ?
医者は依然として、不機嫌な表情から変わりない。
「他にどこか、悪いところがあったんですか?」
そう聞くと、医者は蓮の目を一瞬見たあと、すぐにまた目を逸らした。
蓮は右手で頭を掻いた。何かあるならそうはっきり言ってくれと言いたくなったが、我慢した。蓮はいつにも増して苛立った。
医者は、一つ浅い呼吸をした後、また話し始めた。
「あなた、血液型はO型でしたよね?」
「血液型? ええ、そうですが。それが何か」
何の話だ?
血液検査を受ける前のアンケート用紙には血液型を書く欄があり、確かにそこには「O型」と書いていた。医者はそれを見て答えているのだろうと思った。
思いもよらぬ質問がきたので、蓮は頭を傾げた。蓮は、椅子に深く座りなおし、背筋を正してから、次の医者の言葉を待った。
相変わらず医者は、検査結果の用紙を睨みつけたままだったが、しばらくして、その顔をゆっくりと上げた。
「あなたの血液型ですが。検査の結果は、B型でしたよ」
「B型⁉」
その言葉に、愕然としてしまった。B型、B型と心の中で何回も繰り返した。
血液型がB型に変わる⁉ そんな事がある訳がない。だって、俺は二十年間ずっとO型として生きてきたんだぞ。
俺の友人だってそう思っている。それなら、俺が大雑把で、神経質で、自己中心的で……な性格をどう説明すればいいのか。
蓮は混乱したまま、信じ難いその事実についてもう一度医者に尋ねた。
「俺がB型だって⁉ どういう事ですか」
「どうもこうも、検査結果はそう出ていますよ? 宮﨑さん、以前血液検査をされたのはいつですか?」
「えっと……分かりませんが」
「そうですか。でも良かったじゃないですか。本当の血液型が分かって」
「いやでも」
蓮はこの医者とどれだけ話をしても変わる事のないその事実を、受け止められないでいた。俺がB型、いやそんな筈はないと口に出しかけては、また飲み込んだ。
医者の話はそれで終わった。蓮は逃げるようにして病院から出た。
蓮はすぐにスマホで「血液型が変わる」というキーワードで調べると、早速いくつかの記事がヒットした。
どうやらその記事によると、幼い頃に調べた血液型は、大人になった時に違う血液型で判別される事もあるという。
蓮は妙だなと思えた。おふくろはO型で、兄貴もO型だし、親父は確か……。永吉の血液型を知らない事に、蓮は気づいた。
ネット情報でも信用できずにいた蓮は、この真相を誰かに確かめるべきか、悩んだ。
混乱した頭の中は、深呼吸をする程度では冷静にはならなかった。
「ただいま」
有花が仕事から帰って来たようだ。
「おかえり」
蓮は家に帰り着いた後、居間でテレビを見ながら気を紛らした。
有花が疲れた顔をして、居間に入ってきた。
「健康診断、今日だったんでしょ」
蓮は一瞬どきっとしたが、平然を装った。
「うん」
「で?どうだったの?」
「特に問題ないらしい」
蓮はテレビを見たまま答えた。
「そう。よかったね」
そう言うと、有花は寝室に行った。
蓮は、はあとため息をついた。
その日の夜は、有花とろくに会話もできなかった。動揺して目も合わせられない。
そんな蓮を見て、何か様子が変だなと感じた有花だったが、何も言わなかった。