ただ、メンバーになるということは、メンバーに入れなかった部員を含めた全員の思いを受け継ぐことになるので、その分プレッシャーも感じずにはいられない。

由大は、県総体に出場したことである程度自信がついていたが、先輩たちの走りを見て、その気迫に圧倒されそうになることがあった。

練習が終わると、泉たちマネージャーがしそジュースを準備してくれていた。夏の県総体の時に泉が作ってくれたものだ。住田先生がそれに目をつけて、マネージャーに指示して、練習後に出てくるのが恒例となっていた。

「みんな聞いてくれ」

住田先生が部員全員を集めて話し始めた。

「いよいよ地区大会まであと2週間だ。これまでの練習状況、体調管理、そして各区間への適性を見ながらメンバーを決めたので、今から発表する」

「1区勝部、2区松崎、3区梶川、4区岡田、5区田中、6区奥田、そしてアンカーの7区は正谷。以上」

補欠に入れればラッキーと考えていた由大にとっては望外の出来事となり、さらに1年生から自分だけが選ばれた形となり、他の先輩や同級生の手前、どう喜んでいいのか分からなかった。嬉しいような申し訳ないような気持ちと同時に、大きなプレッシャーも感じていた。

「わが世広中学は昨年まで連覇してきているが、だから今年も優勝できるというもんでもない。当たり前じゃけど、他の学校も一生懸命練習してきている。

駅伝は個人種目と違って、お互いの長所を伸ばすことができる。例え不調なメンバーがいたとしても、他のメンバーでそれをカバーすることもできる。

最終的には、どのチームが一番早くたすきをゴールまで運べるかということになるので、各区間が他の区間のためにも一秒でも早くたすきリレーが出来るように頑張るもんだ。

たすきを受け取る位置、レースの展開によっては、追いかけたり逃げたりしないといけない。頭では分かっていてもなかなか自分のペースを守ることが難しいこともある。

でも失敗を恐れていたら何も始まらないぞ。日々の練習の成果を本番で思い切りぶつけてほしい。そのためにも、メンバーに選ばれた者、そして残念ながら選ばれなかった者、みんながこれからの体調管理を大事にしていこう」

「やったな、ヨッシー!」

帰りがけに正が駆け寄ってきた。

「ありがとう。なんか、僕なんかでええんか、という感じなんよ」

「何を言うとるんじゃ。ヨッシーは最近調子良さそうだったじゃん。この調子を保って地区大会優勝に貢献してくれえの」正は3人の補欠に含まれていた。きっとがっかりしていたに違いないが、我がことのように喜んでくれた。

正は昔からいいやつだ。帰り道では泉も祝福してくれた。

「1年ではヨッシーだけ選ばれたね。1年生代表やね。プレッシャーをかけるつもりはないけど、みんなの分まで頑張って優勝してね」

「おお」

最近、由大は泉を見るのが少しまぶしく感じるようになっていた。今日はいつもの汗臭さが、なぜかいつもより甘酸っぱく感じた。