新しい家族
それでな、やがて“すず”が身籠り、皆は更なる幸福に包まれた。
わしは弘に言ったんじゃ。
「今まで以上に、すずと、この子のために頑張らんとのう。弘や」
「そうじゃね。魚もようけい捕りましょかい」
家族は大いに盛り上がったもんで。
ある風の強い朝、弘は漁に出ると言った。
「ちいとひどい風じゃのう。大丈夫か?」
「父さん。早春にはよくあることじゃ。じきに止むじゃろうし、あまり沖へは行かない様にする。捕れなければ即帰るで」
などと打ち合わせをして二人で出ていった。そうして、その日も次の日も帰ってはこんかったんじゃ。
その日から、すずは毎日浜へ出た。三里ケ浜の砂は粗い。玉砂利のようなんじゃ。それでも薄い下駄を履いてすずは毎日捜しに出た。
見ておれんかった。
すずさんだけの身体と違うから、大切にしなさいと、外出を控えさせた。
涙に暮れるすずは、それでも夏になって、元気な男の子を出産した。
“武”と名付けた。
すずは街の娘で、弘が見初めて家に連れてきたんじゃ。料理の上手な明るい娘で、家庭が一気に華やいだ。わしも安心して家のことは任せた。僅かな間だったが、そこには希望に満ちた一家があったでのう。
芳蔵と弘が帰らぬまま、一年と半年が過ぎようとしていた。
武が生まれて一年近くが経った。
「すずさん。乳の出はどうかね?」と、尋ねると、「はい。お陰さまで、この子には十分です。すみません、もっと動かないといけないのに……。お義母(かあ)さんの力にはなれませんで」と、言う。
「何言うんじゃ。心配しなさんな。あんたも苦しい中、ようやっている。無理したらいかんよ」
とは言っても、すずが日に日に痩せていくのが心配じゃった。
わしは実家の兄、安治の力を借りながら懸命に働いた。田畑を世話し、工夫して野菜を作った。その評判は良く、市場でもよく売れましたで。