夏休みの宿題
2日後には学校で終業式があった。
県総体の結果報告もあり各クラブが表彰される。駅伝部は勝部先輩が代表し、前に出て表彰された。
「3年生にとって今回が最後の大会になるクラブが多いと思います。ベストを尽くして満足した人、ベストを出し切れなくて後悔している人、様々いると思います。むしろ、これまで練習してきた"プロセス"が大事で、一生懸命やってきたこれまでの3年間が今後活かされる時がくると思います。3年生の皆さんはお疲れ様でした」
校長先生の言葉の後、各クラブの代表が一言ずつ挨拶をしていった。最後が駅伝部の番だ。
「駅伝部の3年にとって、秋の県の駅伝大会が最後になります。今までやってきた練習が活かせるように、今後も頑張っていきますので、応援よろしくお願いします」
勝部先輩の力強い一言で挨拶が終わった。各クラスで夏休みの注意事項などの説明が行われていた。一通り説明が終わった後、原先生から重大発表があった。
「実は、先生はこの夏に手術を受けることになった」
「ええっ!」
みんなが驚くのも当然だ。あんなに元気そうなのに。
「どこか悪かったんですか?」
「いや、実は病気なのは先生の妹なんだ。慢性腎不全といって腎臓の病気のためにずっと入院しているんだ。腎臓が悪くて、おしっこが十分に作られなくて、ずっと人工透析を続けていたんだよ」
「透析って何ですか?」
「さっき言ったように、腎臓が悪いと、おしっこが出なくなるんじゃけど、そのために体に不要なものや水分がたまってしまうんだ。そこで透析を行うんじゃけど、この人工透析には大きく2種類あって、血液透析と腹膜透析というものがあるんじゃ。先生の妹は血液透析をずっとやってきたんだけど、それは体から血液を抜いて、人工腎臓を使って血液中から不要なものや余分な水分を取り除いて、その後きれいになった血液を体に戻すというものなんだ」
「痛くないんですか?」
「やっている時は痛くないみたいだけど、時々、血液を抜く血管が詰まったりすると入れ直しとかをしなければいけんし、とにかく管理が大変みたいなんよ」
「それで、妹さんが病気で、なんで先生が手術するんですか?」
「それなんだけど、実は"生体腎移植"をするんだ。腎臓は人間みんな左右に1個ずつあるんだけど、先生の腎臓の内1つを取り出して、妹にあげるんだ。そうすることで、妹は透析をしなくてすむようになる。おそらく生活がぐっと楽になるはずだよ」
「先生から腎臓を取っても大丈夫なの?」
「はっはっは。実は最初、先生もそれを聞いた時にびっくりしたんよ。そして、みんなと同じ考えになったんよ。そうしたら、病院の先生は、腎臓は1つでもあれば十分にやっていける、って言われたんじゃ」
「でも、やばそうじゃん」