しかし、1980年代以降、こうした伝統的理念に加え、あるいはそれらに代わって、顧客中心、企業価値最大化、創造と前進のような現代的企業観に即した企業理念を掲げる事例が急速に増えつつある。
企業理念は、創業者や経営者によって示されたものが多いが、創業当初は生き残りに精一杯であり、がむしゃらに前に進むしかなく、成文化した企業理念などを有する企業など、おそらくなかったであろう。
しかし、たとえ成文化されていなくとも社員全てが共有化できる概念を持ってさえいれば、後日振り返る余裕ができ、将来を考えたときに成文化すればよいのではないだろうか。走りながら考えるのでも十分である。しかし、いかなる企業においても基本的な概念だけはしっかり持っていなければならないと思う。
企業は利益を上げ、社員を雇用し、株主に配当をし、協力会社と適切に協業し、環境も配慮し、ステークホルダー(利害関係者)の利益になるために存在する。
しかし、それだけではない。ゴーイングコンサーンとして企業が永続的に発展していくためには、確固たる企業理念がなければ、従業員はじめステークホルダーの理解は得られない。
(注)ゴーイングコンサーン(Going Concern)継続企業の前提と呼ばれ、企業が将来にわたって事業を継続していくという前提のことをいい、企業が無期限に続くと仮定されることを意味する。
「創業は易く守成は難し」と言われるように、天の時と地の利と人の和があればスタートアップ企業として取り敢えずは成功することが可能だが、30年後にその企業が生き残っているとは限らない。
次世代にしっかりとバトンタッチをして生き続けるには、その企業理念が社員、ユーザー、協力業者等ステークホルダーにひとしく完璧に理解され、受け入れられなければならない。
企業が逆境に陥った時に、給料が下がろうが労働時間が増えようが、企業の建て直しに懸命に努力するコアの社員が必要であり、そしてそのような人が必ずいるものである。
その人たちの精神的バックボーンの一つに企業理念があり、彼らは企業理念に共鳴しモラール(士気)を落とすことなく働き続けることができるのである。その意味でも企業理念の確立、その維持は企業の存続に関わる重要な事項である。
100年以上存続している企業は、ほとんどが社会に誇れる企業理念を持ち、社員はじめステークホルダーがひとしく共有している。