東京ゼロメートル地帯を遊水地に…まずは空き家の活用を

5区以外の東京区部や三多摩、神奈川、埼玉、千葉の周辺都市にも100万軒を超す空き家がある。千葉ニュータウンなども、当初の計画人口は34万人だったが、今は10万人くらいしか住んでいないそうだから、まだまだ余裕はあるはずだ(図1)。

図1:周辺市区の空き家状況

国はこれらの空き家を災害危険地域から移住してくる人のために確保する。所有者がいる空き家は国が妥当な価格で購入し、持ち主不明な場合は、一定期間公示後申し出がなければ国有財産とする。

相続税が払えず空き家を現物給付したいという申し入れがあればそれも受け入れる。それらを含め空き家をいったん国有財産とし、移住してくる人に妥当な金額で売る。

一連の売買は市場価格ではなく、このプロジェクト特有の価格での取引とする。国はこれで儲けることは一切しない。移住者は、購入した家のリフォームや家財購入、引越し関係の諸費用が賄えるようにする。賃借している人にも移住のための補償金を国が出す。

なお、この5区には町工場をはじめとする多くの事業所もある。それらも基本的にはすべて他所に移ってもらうことになるが、後述する東京一極集中解消策との関連も含め、思い切って東京圏を離れるか、あるいは都心から移転した事業所の跡に移転するなどさまざまな対処の仕方があると思う。

このプロジェクトの期間は30年としたい。南海トラフの海溝型地震は30年以内に70%の確率で起きると言われているので、それをひとつの目安としたいからである。進める体制案については後述するが、このための国の専門部署を作りそこが行うものとする。

そして国は、このようなプロジェクトを行うための指定地域を定め、地域住民に対し移住を説得し、住民から土地や住宅を買い取る。

30年間でこの約130万世帯をお世話する担当者は、1人が年間13世帯を担当するとすれば、延べ10万人が必要だ。交渉開始から移転まで平均1年とすると、常時3000人強の優秀なスタッフを集めなければならないが、高給で迎えてほしい。

また1世帯当たりの平均買取費用を3000万円と仮定すれば総額39兆円である。なお130万世帯のなかにはかなり多くの賃借人も含まれている。

賃借している人も、同程度の生活が維持できる安全な地帯に移住してもらうことになるが、引越しの費用や契約一時金などを含めた補償金を支払うことになる。それらを含めた平均の費用であり要員である。

そのくらいの規模の事業だが、これから発生することが予想される被害への事前対応や事後復旧の手間や費用を考えれば、十分リーズナブルな話だと思う。

移転後の5区の総人口は最終的に数万人かあるいは数千人かも知れない。5区はすべて閉鎖し、跡地を統べる新しい区か町か村にする。現5区の区役所職員をはじめとする行政関係で働く人は仕事を失うことになるが、それは30年くらいかけて行うことである。

これを進めるスタッフの仕事もあるし、今から計画的に再配置をして行けば問題ない。

住所表示や、江戸川区に本籍をもつ筆者にも影響する地番の変更も必要かと思うし、墓をどうするかなど解決しければならない問題は多いはずだが、このくらい大胆なことをしないと、人口減少下にあるわが国のさまざまな問題を解決することはできないと思うのである。