雨に唄えば

「……メイヤーさんが彼に言ったの。私が相手役だってね。彼は立ち上がると驚いたって言ったけど、全然喜んでるようじゃなかった。だって私のことなんか聞いたことがなかったのよ。“それで彼女はどんな実績があるんですか”ってジーンがメイヤーさんに聞いたの。答えは、“何をしたかじゃない。これからが大事なんだ。我々はこの子をスターにしたいんだ”ジーンは見るからに不満そうだった。彼は私に言ったの。“マキシー・フォードはできるかい?”私はポカンとしながら彼の顔を見て言ったの。“それってどんな車ですか?”まあこれで彼は面白がっちゃったのよ。“タイム・ステップくらいはできるの? タイム・ステップが何だか知ってるかい?”って聞かれたの。“ハイ出来ます”って答えて、ちょっと踊って見せたの。まあジーンはまだ納得はしてないみたいだったけど、メイヤーさんの言葉は絶対だから。で結局私を押し付けられちゃったわけ(51)」

もっともこれについてはジーンの側から正反対の話が出てくる。ジーンとドーネンは“アバ・ダバ・ハネムーン”を聞いて以来、彼女がキャシー役に最適だと考えていたというのだ。

またキャスリン・グレイスンをはじめ数人の女優が候補に挙がったものの、年齢やイメージなど総合的な面でレイノルズに決まったというのも事実である。ドンの相手役でスターのレナ・ラモントについて、コムデンとグリーンは旧知のジュディ・ホリデイを念頭に置いて執筆をしていた。

しかし当時のホリデイはすでにこの役を引き受けるには大物になりすぎていた。「巴里のアメリカ人」に引き続きニナ・フォッシュの起用も考えられたが、スクリーンテストの結果、この役は彼女に合わないことがわかった。