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第六章 踊る大紐育

「踊る大紐育」の映画化に当たっては、舞台版と比べ様々な変更が加えられた。

主演のジーンを中心にストーリーが展開され、登場人物の性格は主要なキャストそれぞれのパーソナリティーに合うように変えられた。

映画の冒頭からアイヴィー(ヴェラ=エレン)を探すために一行が別々に行動し始めるまでに要する時間は、スタジオの意向を考慮して延長された。

その間に新たなナンバー“先史時代の男”が挿入され、博物館で皆が踊り回った後にアン・ミラーのタップの見せ場が作られた。ジーンとアイヴィーが実は同じ田舎町の出身だったという裏話も付け加えられ、ジーンが田舎町の情景を歌いながら、アイヴィーと軽くタップを踏むナンバー“メイン・ストリート”も加わった。

戦時下に上演された舞台版では背景に戦争が意識されたが、映画では戦後すぐのアメリカの世相を描くように努めた。バーンスタインの曲で映画にも使われたのは、三人がニューヨークの名所を回りながら快活に歌う“ニューヨーク、ニューヨーク”など三曲と新たに作られた“ニューヨークの一日”の計四曲。

ロジャー・イーデンスが作曲したのは、六人がエンパイヤー・ステート・ビルディングの展望台から地上に降りて歌い踊る“オン・ザ・タウン”や博物館での“先史時代の男”など七曲であった。

なぜ完成されているはずの舞台作品を映画化に当たり変えてしまうのかという問いに、アーサー・フリードは次のように答え、舞台作品を映画化する場合のプロデューサーの役割について語っている。

「“なぜいじるんだ”って決まって聞かれるんだよ。“芝居は完璧にできてると思う。映画化する時にどうしてあれこれ変えるんだ”とね。プロデューサーってものは必ず自分でその芝居を観ている。判断の分かれ目は、プロデューサーも実際にそれが完璧と思うかどうかにある。あくまで舞台としてだけどね。

だけど彼がこの仕事から少なくとも何かを学んでいれば、演劇と映画はまったく異なるものだということがわかっているはずだ。映画というのはカメラによって語られるものだ。