「なぜ」を五回繰り返すことでトラブルの真の原因をあぶりだして、その対策を打つことで再発を防止します。このように、機械工学的な問題には、原因論は有効に機能しますが、行動の問題や人間の感情(心理的問題)には不向きです。
原因論では、問題の解説はできるが解決には至らない行動に関して、例えば、家に引きこもって学校に行かない中学生に対して、原因論と目的論の視点から質問すると以下のようになります。
〈原因論の問い〉あなたは、なぜ学校に行かないのですか
〈目的論の問い〉あなたは、何のために学校に行かないのですか
原因論の問いに対しては、「親友と喧嘩をして会いたくないから」と答えました。一方、目的論の問いに対しては、「人間関係に疲れたので、親からの思いやりやいたわりがほしいから、親の注目を得るために」と答えました。
このように、問いかけの視点が違うと見える世界が全く違うことがわかります。原因論で「なぜ、親友と喧嘩をしたのか」とさらに問いかけ続けても、原因は、明確になりますが、解決には至らないことは予想できます。
原因論では、問題の原因の解説にはなりますが、問題の解決にはなりません。次に、感情に関して、例えば、上司が部下の失敗に対して怒鳴り散らしたとします。同様に原因論と目的論の視点から質問すると以下のようになります。
〈原因論の問い〉あなたは、なぜ部下を怒鳴り散らしたのですか
〈目的論の問い〉あなたは、何のために部下を怒鳴り散らしたのですか
原因論の問いに対しては、「部下が、何回も同じ間違いをしたので怒った」と答えました。一方、目的論の問いに対しては、「部下をコントロールするいい機会だと思って怒った」と答えました。
アドラー心理学では、後者のように感情には、目的があると考えます。感情は、ある目的を達成させるために使用されます。
アドラー心理学は、使用の心理学である
目的は、所与のものではなく自分の自由意思で決定することができます(後述する主体論[自己決定性])。
人は、この目的を達成するために、自分を道具のように主体的に使用して生きています(感情を道具として使用するように)。アドラー心理学が「使用の心理学」と言われるのは、この考え方から由来しています。
この反対が「所有の心理学」です。所有の心理学では、感情が人を動かしていると捉えます。アドラー心理学では、「重要なことは、人が何かを持って生まれたかではなく、与えられたものをどう使いこなすかである。」(『アドラー心理学教科書』)と考えています。