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第五章 隣人とのバトル
当時、個人情報などはそんなに厳しくなかった時代なので、マンションの住民の電話番号は全て明らかにされていた。
主婦A子からの電話は朝早くから夜遅くまでかかってきたので、妻はノイローゼになりかけていた。そのため私が居るときは私が出ることにし、私が会社に居るときに妻が会社に電話をかけ私が隣人の家の電話にかけるようにしていた。
基本的に我が家の息子の騒音が原因なので低姿勢での対応をしていたのであるが、あまりにも電話が頻繁にかかってくるので一度、我が家で話し合おうということになった。
隣人は受験生の息子も含め三人暮らし。このマンションに入居してから殆ど挨拶すらろくにしない隣人であった。A子は受験生の息子を抱えているためか、かなりの神経質になっているのかと思っていたが、マンションでの評判はすこぶる悪いようであった。
このマンションは部屋の裏側の小さな庭のすぐ前に電車が走っている。マンション購入時には列車の騒音と振動防止のため線路とマンションの境目に強度の鉄板を入れてあり、窓も騒音防止のために二重サッシにしていると業者からの説明があった。
さすがに真夏に窓を開放していれば、多少の音は漏れ聞こえてくるが窓をしっかり閉め切っていれば気にならないくらいの音になる。
しかし、隣人の主婦はそれすら気にくわないらしく鉄道会社に何度もクレームの電話を入れているとのことであった。この話は妻のマンションの知人から仕入れた情報である。それだけ神経質な主婦ということである。
とある日曜日の朝早く、いつものように電話が入った。一度、話し合いの提案をしたいと思っていたので良いタイミングであった。すぐに主人に代わって貰い、話し合いたいという話をしたらすぐ決まった。
翌週の日曜日、私の家の様子を見て貰ったほうが良いと思い、私の部屋で隣の夫婦と私達夫婦とで話し合うことになった。話し合いの当日。私達夫婦と隣人夫婦と飲み物すらなく対峙していた。
まず、私の方からおもむろに口を開いた。
「まず、どの程度の音と騒音がするのか検証しませんか」
と提案すると隣人夫婦もそうしましょうということになり、まず我が家のフローリング上でバスケットボールをペタペタとドリブルをしてみた。多少の音はするがそこまで気になるような音ではないかと思った。
隣人夫婦は「フウン」といって黙っていた。次に畳部屋でも同じことをやってみた。音は畳に吸い取られるのかフローリングの上でやったときより遙かに静かであった。この時も夫婦は無言であった。
次の提案として我家でバスケットボールを叩いて隣の部屋にどこまで響くのか実験した。私と隣人夫婦が隣人の部屋へ行き、数分後私の妻にボールをフローリングの部屋でちょっと強く叩いて貰った。