――翌朝、朝食を摂りに一階に下りていったとき、ドン・ロドリゲスの食堂にはもう常連客が集まっていた。

宿泊の客はどうやら私ひとりだったようなので、この、思い思いの場所に席を占めてミゲル特製の朝食を待っている十数人ほどの老人たちは皆地元の人間であるに相違なかった。彼らは私の姿を認めると、さまざまに反応した。

見慣れぬ外国人を一瞥して目を逸らす人、奇異なものを見るように、目を細めて訝しげに見つめてくる人、それに、慈しむように微笑みを浮かべてよこす人もいた。女将であるミルナが手慣れた様子で次々とテーブルにコーヒーを出していく。

私の席に来ると、動作を緩めてその巨大な体をかしげた。

「朝はセットになっているんだけど、おまかせで大丈夫かしら?」

私は、問題ないと答えた。元々好き嫌いのない性質で、それを唯一の自慢にしている。

私は、かつてパングレアスで暮らした日々に口にしたもので、食べられないものなど何ひとつなかったということを思い出した。ここの料理は、私にとっては、少し辛いくらいでほとんど抵抗なく口に入れられるものばかりなのだ。

アルミ製のコーヒーマシンで淹れたちょっと濃いめのコーヒーはとても熱くて、香り立つ湯気が後から後から湧き上がってきた。

だけど何と美味しいコーヒーだろう。

苦味があるのに、とてもまろやかなのだ。そしてこの馥郁(ふくいく)たる香り……。

それは、起き抜けですっきりしない私の頭を、くっきりと目覚めさせてくれるのだった。そしてこの、これまでに嗅いだことのないアロマは、深く吸えば吸うほど、心を体をくつろがせ、まるで楽園にでもいるような気分にさせてくれるのだった。

コーヒーの味に酔いしれた気分が収まってきたころ、朝食のセット・プレートが運ばれてきた。ミルナはそれをテーブルの上に置くとき、体を捻って柔らかなしな(、、)をつくり、官能的な声でこう言った、

「キューバにキスを!」

そして微笑んで素早くウィンクをすると、さっさと厨房に引き上げて行ってしまった。

彼女のスーパーサイズの体からは想像もできない、驚くほど滑らかで俊敏な身のこなしだった。

朝食のプレートには、小さな丸いパンで作ったサンドウィッチが二種類と、赤、黄、オレンジ色のパプリカを細く切ったものと薄切りのキュウリとレタスをオリジナルのドレッシングで和えたサラダ、それに青いバナナを輪切りにして揚げたものが載っていた。