目が慣れてくると闇が薄らぎ小さな塊が自分を見ている。目がピカピカ光った。ふとそのものの正体に気が付いて自分の呆けた声が聞こえた。

「お前ら、猫か?」

相手が答えた。

「そーじゃ」

「にゃーじゃ」

「猫じゃ」

同時に言ってくるんとまわると、小さな女の子の姿に変わった。

「なぜ、ここにきた?」

二人が警戒心をむき出しで言った。

「それはこっちが聞きたいんだが」

反射的に返すと二人はますます警戒心をつよめたようでしゃーと息を吐いた。一人は黒い着物に白い点々のある着物を着て、一人は白い着物に黒い点々のある着物を着ている。

「あれ」

急に黒い点々のほうが言った。

「おとうさんのにおいがするぞ」

白い点々のほうが言った。

「ねえさんのにおいもする、お前はお父さんの知り合いか?」

黒い点々が言ってふたりはひょこと首を傾げた。

二人はあっという間に近づいてきて自分の足にしがみついた。自分は反射的に振り払った。動物は好きではない。相手もびっくりしたのかパッと壁まで飛んで自分を見てまた、

「しゃー」と息を吐いた。

「おまえら、引っかいたり、噛んだりしないだろうな」

「ふん」一人が鼻を鳴らした。

「わしらが噛むのは好きな人だけじゃ。噛んだら少なくとも人は自分に気づいてくれる」 

もう一人が言った。

「噛んだら愛してほしくても、愛されない理由がわかる」

自分は何と言っていいかわからずに部屋を見まわした。

薄明りの中、両側に障子が見える。片方は真っ暗で片方から薄明りがさしている。真ん中に小さなテーブルがある。後ろには小さな茶箪笥、殺風景な小さな座敷だ。

「座っていいか?」

と言うと二人は黙ってうなずいた。

座ると不思議なほど落ち着いてきた。と同時に馬鹿らしくなってきた。