「メスください」「ではよろしくお願いします」「お願いします」
すぐに手術室に設置されている電子カルテを開いてCT画像を見直し、手術のイメージトレーニングを行う。間もなく、森本さんが救急外来の看護師さんに連れられて車椅子で入室した。
救急外来の看護師さんから手術室の看護師さんへの申し送りが終わると、患者さんを手術台に移乗する。森本さんは手術が初めてということもあり、緊張した面持ちである。
「森本さん、頑張りましょうね。寝ているうちに終わりますからね」
緊張を和らげようと、声をかける。ICがうまくできず、少し気まずい思いもあったが、患者さんに安心して手術を受けてもらうことが最重要だ。
「はい、お願いします」
森本さんの表情が少し和らいだ気がした。
全身麻酔がかかり体位を整えると、術野(じゅつや)を消毒し、僕たちは手洗いをして、清潔なガウンを着る。いよいよ手術が始まる。術式は「腹腔鏡下虫垂切除術」である。
「メスください」
「ではよろしくお願いします」
「お願いします」
例によって執刀医の僕が入刀の直前に挨拶を行い、みんながそれに答える。
「メス返します」
「コッヘル」
「筋鈎(きんこう)」
「電気メス」
「カメラポート」
お臍の創(傷)からカメラを入れ、中を覗く。ここまではどんな手術でも定型通りなのでスムーズにできる(正確にはできるようになった)。