彼は、家庭ではいい息子で母親の溺愛を受けていたが、美代子のこともきっと喜んでくれると一人合点していたので、ある日の夕食後、母親に「ママにいい報告があるんだ」と目を輝かして言うと「何、話して頂戴」と返ってきたタイミングで、実は「今、会社でお付き合いしている人がいる。自分は結婚を考えている」と話したところで、母親の表情が一変、「ダメですよ、どのようなご家庭の娘さんか知りませんが、貴方のお嫁さんは母さんがちゃんと見つけますから、近い内にお見合いの写真をお見せしようとしていたところなの、分かっているわね、お父さんだってきっと職場結婚には反対よ、ちゃんとした素性の人と一緒になってもらいたいから」

そう言われて彼はママに背くことが出来なかった。子供の時からママの言うことをいつも受け入れてきた経緯があり、体に染みついていた。

彼は後悔した。美代子さんとお付き合いしてからすでに二年になろうとしている、もっと早い段階でママに話しておけば、状況も違っていたかもしれないし、ママを説得する工夫も出来た。今日この場で口答えする雰囲気ではなかったので「一度美代子さんに会ってもらえばきっと気に入ってもらえるよ」とだけ言うのが精いっぱいだった。

ママは最後に一言、

「美代子さんという方にお会いすれば、後で気まずい思いをさせるのも悪いからママは会わないわ」

とつれない一言が返ってきた。

彼は自室に戻りベッドに腰かけながら、どうしたものか打開策を思いめぐらした。

しかし決め手となる名案が浮かんでこない。

美代子さんにこの次会う時に、どう説明したらいいのか、最悪のシナリオが頭上でぐるぐると回転しだした。

両方の手で顔を覆い頭を下げてしばらく放心状態が続いた。

とりあえず、事実を話してママの考えを伝えよう。その上で美代子さんが一緒に戦ってくれるなら自分もママに強い思いをぶつけようと決めた。