私は民宿〝ドン・ロドリゲス〟に宿を取ることにした。ここは一階がレストラン、二階が家族の居住スペース、三階が宿泊施設になっている。気を張らなくてよいアットホームな雰囲気が魅力だった。
パングレアスに着いて、宿泊先も決めぬまま懐かしさにまかせてフラフラと歩き回っていたとき、ふとある建物が目に止まった。古びた通りの四つ角に面し、キューバの田舎町にしては堅牢な造りの、外壁がスカイブルーに塗られた美しい建物だった。
入口には〝ドン・ロドリゲス〟と書かれた看板が掲げられてある。そのとき入口を掃くために、箒とちり取りを持って出て来たのが女将のミルナだった。
「宿を探してるの?」
ちり取りを地面に置き、箒を手にしたまま、巨体を揺らしながら近づいてきて彼女は言った。
「……もし部屋が空いていたら、しばらくのあいだ泊めてもらいたいんですが……」
その圧倒的な存在感にやや気圧されながら私が聞くと、彼女は視線をそらし、どこか遠くを見るような目つきをしていっとき何ごとか考えるような様子をした。が、会得がいったように小さくうなづくと、あっさりと、
「いいよ」
と言って受付に案内してくれたのだった。