第一章 心の傷
父の母校でもあったこの小学校は大学までエスカレーター式で進学可能なうえに、医学部も設置されていることから、学費は高かったけれどとても人気があり、私の場合も募集定員八十名のところ、倍率三十倍の競争を勝ち抜いた末の合格だった。そのため、幼稚園の年中組に進級してからの二年間、私は母ともども月、水、金と週三回の予備校通いを続け、年長組になってからの一年間は家庭教師までつけてもらって頑張った次第である。
しかし、それがきっかけとなって両親の仲が壊れてしまうことになるとは、想像もしていなかった。母が私の受験にかかりきりになることで、父は寂しかったのかもしれない。
それまで夕食と言えば、クリニックの診察時間が終了した後、必ず親子三人そろって母の手料理を食べるのが当たり前だった。ところが私の受験勉強が始まると、母は家事の手を抜き始める。
特に予備校がある日、スーパーマンでもない限り、夕方六時に渋谷駅近くの予備校が終わった後、買い物をして帰って父の診察が終わる午後七時までにおいしい料理を作り上げるなんてことは至難の業なのだ。いつの間にか食卓には、デパートで買った総菜をそのまま皿に移し替えただけで並べることが多くなり、それを嫌うかのように、父が外食をする頻度が増していく。
「悪いな、その夕食は明日の昼飯にするから。さっき医師会の会合に誘われちゃって……」