「邂逅」10歳から11歳:運命の出会い 4
スケートリンクに合宿のため呼んだロシアのマリア氏がいる。元世界チャンピオンで親日家としても有名な女性だ。日本語もうまい。少し太ったが流れるようなスケーティングと気品は衰えていない。
この時間は色々なジャンプを教えるレッスンだ。
「みなさん、一度、曲が流れるから聴いてみて。その後、1人ずつこの曲で好きなジャンプを3つ入れて跳んでみてください」
リンク内に曲が流れる。リンクにいる人は一生懸命に曲を聴いている。そこに純、麗子、健太もいる。まず、純が曲に合わせてループ、サルコウそしてアクセルを跳ぶ。その美しさに感嘆の歓声が上がる。
健太は唖然としている。
「曲にもぴったり合っていて美しかった」
と言って拍手をおくるマリア。健太の番になる。ルッツ、フリップを跳び、最後にサルコウを跳ぶが転倒してしまう。
「悪くないけど、力が入りすぎね」
しょげる健太。麗子の番になる。ルッツ、トウループ、サルコウと3つ跳んだ後、最後にアクセルを跳ぶ。華麗に決まり拍手が起きる。
「3つと言ったのに4つ跳んだのね。ジャンプは良かったわ。でも、この短い曲の中に無理やり4つ跳んだから曲とはあまり合ってなかったし、美しくはなかった。スケートは構成や曲に合っているかも重要な要素なの。ジャンプだけじゃないの」
麗子は少し悔しそうな表情でマリアを見ている。しばらくして練習は終わるが、健太は1人で教わったジャンプを確認するように跳んでいる。それを純は見ている。
「頑張り屋だな」
とつぶやく。そこに麗子もやってくる。
「がむしゃらに頑張る人って暑苦しくってカッコ悪い」
「うまくなりたいから練習するんだろ。格好いい、悪いじゃない」
麗子は無言で去っていく。体育館では南コーチが表現の講義をしている。
南コーチの振り付けをみんなに見せてそれを全員で何度もやっている。健太は一生懸命やるが、体が硬いせいもあってうまくいかない。純を見ると華麗に動いていて見入ってしまう。次に麗子を見るとバレエもやっているからだろうが、体の軸がぶれずに何回転もしている。ため息をつく健太。
レストランで閉校式をやっている。小笠原がスピーチをしている。
「みなさん、4日間お疲れ様でした。ここで学んだことを生かして頑張ってください。月のノービス選手権でみなさんに会えるのを楽しみにしています」
解散して全員席から立ち上がる。健太は純のところに行って
「一ノ瀬くん、これからもよろしく」
と手を差し出す。
「よろしく」
と言って健太の手を掴む純。それを冷ややかに見て母親のところに行く麗子。