ただし、患者が増えても病院の収入は増えない。栄養療法を採り入れれば、当然、薬の使用量が激減する。そのため、その診療所でも売上げが彼の赴任前の一〇分の一にまで減ってしまったそうだ。その結果、彼は監督官庁から大いに文句をつけられたとのことである。
しかし、診療効果が上がり、医療費負担が減ったのだから、これほど世のため人のためになっていることはない。褒(ほ)められることはあっても、文句を言われる筋合いはないだろう。そういう本末転倒な価値意識が、この国の医療行政にはこびりついているのである。そのような例は、枚挙にいとまがない。
たとえば、浜松の聖隷三方原(せいれいみかたがはら)病院の栄養科課長・金谷節子(かなやせつこ)女史(現浜松大学健康プロデュース学部健康栄養学科准教授)は、分子栄養学を基盤に病院食を工夫している。それに対して医師からクレームがつくことがあるという。医師には新しい栄養学を理解し、学ぼうという向学の気持ちなどさらさらないのだろう。
こんな例もある。旭川の糖尿病専門病院の管理栄養士が、ある入院患者にタンパク質やビタミンの摂取を勧めたところ、症状の改善がめざましかった。このことが、他の患者さんたちの間で評判となり、医師の耳にも届いた。そして、その栄養士は「勝手なことをするな」と病院長のお叱りを頂戴する羽目になったのである。
また、意識の変革を迫られているのは医学界の人間だけではない。健康が日常の食生活に大きく左右されるものである以上、病気になるか否(いな)かは本人の意識にかかっている。
(三石巌著『医学常識はウソだらけ 分子生物学が明かす「生命の法則」』祥伝社黄金文庫)